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重なりかけた二つの月が、科学の匂いを感じさせないハルケギニア大陸を仄かに照らす。 無事にラ・ロシェールに到着した一行は、ワルドの提案により、 その街で最上等の宿である『女神の杵』亭に泊まることとなった。 殆ど貴族達しか利用しないこの宿は、顧客層に合わせて、大層豪華な作りをしており、貴族達の自尊心を十分に満たすものであった。 その『女神の杵』亭のロビーの一角に、DIOはいた。 貴族の証であるマントを纏っていないにもかかわらず、使用人を従えているこの男の存在に、 他の客たちは揃って訝しげな表情をした。 しかし、それもほんの一時のことであった。 男の振る舞いが余りに堂々としていたことが、主な理由であった。 顔が映るほどピカピカに磨かれたテーブルを前にして、気後れするどころかふんぞり返るなんて、平民に出来るはずはなかったからだ。 テーブルに置かれたワインボトルが、DIOという存在感に軽いアクセントを加える。 周りの客達はそれぞれ、思い思いに想像を巡らせ、勝手に納得をしてその場を去ってゆくのであった。 そして、客達が納得をした理由はもう一つあった。 DIOの傍で、彼とは全く対照的な、暗鬱なオーラを全開にして突っ伏しているギーシュがそれであった。 もう何本も酒を飲んでいるのか、彼の周りには瓶が幾つも転がっていた。 マントを纏っていなければ、誰も彼が貴族であるなどと信じはしなかっただろう。 それくらい、ギーシュはやさぐれていた。 一体何が彼をそこまで追い込んでいるのか誰にも分からなかったが、 理由はどうあれ、彼が傍で情けなく酔いつぶれてくれていたこともあって、 客達はますますもってDIOの貴族性を認めるに至っていた。 夜も更けてゆくにつれて、徐々にロビーにいる人の姿が疎らになってゆく。 そんな『女神の杵』亭に、ワルドとルイズが帰ってきた。 桟橋へアルビオンへ向かう船の乗船の交渉に行っていた二人の顔は、一様に沈痛であった。 ルイズは不機嫌さを隠しもせずに、DIOのテーブルへと向かい、彼の反対側に腰を下ろした。 一つしか置かれていないグラスにワインを注ぎ、一息に飲み干す。 勿論それは、ついさっきDIOが使っていたグラスであった。 DIOの後ろで控えていたシエスタが、それを見てピクリと片眉を上げた。 しかし、シエスタはルイズを止めるには至らなかったし、ルイズもまた、そんなシエスタを無視した。 空になったグラスをテーブルに"ガン!"と叩きつけて、ルイズは溜息をついた。 「どうした、ルイズ。旅はいたって順調なのだろう。 何を浮かない顔をしている」 言葉とは全く裏腹な、冷ややかな笑みを浮かべているDIOに、ルイズはふてくされたまま何も答えない。 場を取り繕うように、ワルドが代わりに説明した。 「アルビオンに渡る船は、明後日にならないと出ないそうなんだ」 「全く話にならないわ! 急ぎの任務だっていうのに……」 二人の言葉に、キュルケは首をかしげた。 ゲルマニア出身の彼女は、アルビオンに関する知識をあまり持ち合わせていなかったのだ。 「あたしはアルビオンに行ったこと無いから分からないんだけれど、どうして明日は船が出ないの?」 キュルケの方を向いて、ワルドが答えた。 「明日の夜は月が重なるだろう。『スヴェルの夜』だ。 その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づくのだ」 つまり、明日丸一日は休めるということらしい。 自然と気が緩み、欠伸をしてしまうキュルケの内心を悟って、ワルドは頷いた。 「さて、来るべき戦いに備えて、今晩と明日はゆっくりと休息をとることにしよう。 部屋はそれぞれもう取ってある」 ワルドは懐から鍵束を取り出し、机の上に置いた。 「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュとルイズの使い魔君が相べ…」 「DIO様の御部屋は、わたくしが別に御用意しております」 スムーズに事を運んでいたワルドの言葉に、シエスタが割り込んだ。 勝手に部屋を予約ししていたと聞いて、ワルドは戸惑った表情を浮かべた。 「しかしね、君……えぇっと、シエスタだったかね。残念だがそうはいかないよ。 いつまた賊どもが襲ってくるか判らないこの状況で、そんな勝手な真似を……」 「別に、御用意して、おりますので」 取り付く島もないシエスタによって、ワルドの言葉は再び遮られた。 彼女の言葉には、僅かながらも確かな怒りが表れている。 普段の無機質なシエスタらしからぬ剣幕に圧され、ワルドは肩をすくめるしかなかった。 ワルドに噛み付くそんなシエスタの様子を、ルイズはワインを飲みながらぼんやりと見ていた。 相変わらずDIOの事となると、梃子でも動かないような頑固さだと、ルイズは半ば感心していた。 ルイズは思う。 そのひたむきな忠誠心には頭が下がるが、どうしてその心遣いを他の人間にも見せてやらないのやら、と。 DIOに対するそれの、千分の一でもいいから他人に示すべきだ。主に私に。 チクショウあのメイド、一体どういう了見なわけ? 私はDIOの主人、マスター、御主人様なの。 つまり私はDIOより偉いのだ。アイアムナンバーワン。そこらの貴族とは、ワケが違うのよ。 こちとらちゃきちゃきのトリステイン生まれの公爵っ娘なんだから。……てやんでぇ。 と、そんなこんなで大分シエスタ論評にも熱が入ってきたルイズに、ワルドが声をかけてきた。 「ルイズ、良いのかい? 君の使い魔のメイドはああ言っているが……」 「えぇ、えぇ、良いのよ。ほっといてあげて。 寧ろ、アイツと相部屋にしたら、ギーシュが可哀相だわ」 ルイズは諦めたように手を振ってワルドに応じた。 ワルドはまだ納得していない様子だったが、DIOの傍で突っ伏しているギーシュをチラリと見て、その惨状に溜め息をついた。 気を取り直し、ワルドは、ルイズに鍵を差し出す。 「僕とルイズは同室だ」 ルイズは弾かれたようにワルドの方に振り向いた。 「婚約者だからね。当然だろう」 「でも私たち、まだ結婚しているというわけではないのよ?」 ワルドは首を振って、ルイズの肩に手を置き、真っ直ぐにルイズを見つめた。 「大事な話があるんだ。二人きりで話がしたい」 肩に置かれたワルドの手に、力が籠もる。 いつになく真剣なワルドの視線に、ルイズは渋々了承することにしたのだった。 こうして、ルイズはキュルケに冷やかされながらも、ワルドと一緒に部屋へと消えていった。 ルイズの姿が消えた後もキュルケは暫く一人で何やら楽しんでいたが、やがて飽きたのか、タバサを引き連れて割り当てられた部屋へと消えていった。 DIOとシエスタも、さっさと部屋へと消えてしまい、ロビーに残ったのはギーシュ一人となった。 しかし、今のギーシュにとってはそんなことはどうでもよく、寧ろ一人になれただけ好都合だとも思っていた。 暫くテーブルに突っ伏して、時々思い出したように酒を呷る。その繰り返し。 「僕は…うぃっく! ……トリステインの薔薇なんだ。 ひゃっく! 薔薇は皆を…楽しませるために存在するのであって……えっく! ……決して一人のレイディのためにあるわけでは……!!」 アルコールが回り、酩酊状態に陥ったギーシュの脳裏に、これまで付き合ってきた(遊んできたとも言う)女生徒の顔が、泡のように次々と浮かんでは消えていった。 それは一年生のとある生徒の顔であったり、上級生である三年生の生徒の顔であったり、思い出す限り様々であった。 やがて、一年生のケティという女生徒の顔が浮かんで、消えていった。 そして最後に…………モンモランシーの顔が浮かんだ。 見事な金髪を縦ロールにした、トリステイン生まれであることを別にしてもなお勝ち気と言えた、けれどやはり可愛らしかった同級生の少女。 不思議なことに、いくら酒を飲んでも、ギーシュの頭からモンモランシーの顔が拭い去られることはなかった。 その理由がわからないことが、ギーシュの苛立ちを加速させる結果となり、ギーシュはますます酔いつぶれていくのであった。 しかし、例えやり切れない思いに限りはなくとも、酒には限りがある。 とうとう最後の一本を飲み干してしまったギーシュは、名残惜しそうに溜め息をつき、 やがて諦めたようにロビーを後にして、割り当てられた自分の部屋へと向かったのだった。 相方のいないダブルルーム。何だか今の自分にはピッタリではないか。 部屋に続く階段を、フラつく足取りで一歩一歩上がりながら、ギーシュは皮肉げに笑った。 いつから自分はこんなに厭世的になってしまったのだろうと、激しい自己嫌悪に陥りつつ、ギーシュはドアノブを回す。 おかしなことに、鍵はあいていた。 普段のギーシュだったら、あるいはほんの少しくらいなら疑ったかもしれなかったが、何しろ今は酔いつぶれている状態である。 夢と現の区別もついていない彼には、なぜ部屋の鍵があいているか、なんてどうでもよかった。 倒れ込むようにして部屋に入るギーシュ。 「お疲れ様でございます、ミスタ・グラモン」 部屋の鍵があいていた原因が、目の前にいた。 いつものメイド服こそ脱いで、寝間着に着替えてはいるが、 澄ました態度を崩さぬ目の前の少女は間違い無くシエスタであった。 「あぁ……君か。 ……どうしてこの部屋にいるんだ? 主人のところにいなくていいのか」 「DIO様は既にお休みになられました。 わたくしのような者が、あの方と同じ御部屋で一夜を明かすなど、許されないことです。 従って、不躾ながら相部屋を仕ることになりました」 普段のギーシュだったら、『貴族が平民と同じ部屋で寝られるか!』くらいの文句は言っていただろうが、 今現在無気力状態にあるギーシュは、何も言わずに自分のベッドに倒れ伏した。 飲み過ぎで判然としない頭を持て余しながら、ギーシュは横目でシエスタを見た。 「君は随分とあの男に忠実なんだな……」 酔った勢いか、気がつけばギーシュはそんなことを口走っていた。 返事など期待してはいなかったが、意外なことに、シエスタはいつもの真面目な顔をギーシュに向けた。 「それがわたくしの仕事であり、唯一の幸せでもあるのです」 ギーシュはフンッと鼻で笑った。 他人に従うことが幸せであるなどと、貴族である彼には到底理解できなかったからだった。 「本当にそれが君の幸せなのか? あの男の命令にほいほい従うことが?」 「幸せの在り方とは、人それぞれで御座いましょう。 ある人の幸せが、別の人にとっては不幸せである、などという話はよくあるでしょうし」 事務的なシエスタの回答だったが、何故か彼女の言葉はギーシュの胸を打った。 「幸せ、か……」 ギーシュは思い出す。 さっき飲んできたワインよりもはるかに濃厚だったこの一日を。 その始めに見たモンモランシーは、まさに幸せに包まれていたようにギーシュには映った。 モンモランシーのあんなにも輝いた表情を見たことは、少なくとも学院に入学してからの二年間、ギーシュは見たことがなかった。 ということはあれが、彼女の幸せなのだろうか? あの男の傍にいることが……。 ギーシュには全く分からなかった。貴族として生きてきたせいもあり、ギーシュは他人の立場に立って考えるということが絶望的に不得意だった。 しかし今回、何の因果か、ギーシュはそのことについて考えてみる機会を得た。 ……では、自分にとっての幸せとは、何なのだろう。 そう考えて直ぐに頭に浮かんだのは、自分と同じく好色な父の教えでもあり、己のモットーともいえる言葉であった。 『グラモンの男たるもの、常に多くの女性を楽しませる薔薇であれ』 ギーシュは今まで、このモットーに沿って行動してきた。 色々な女の子にモーションをかけてきたし、女の子を巡って、男子生徒と決闘の真似事をしたことも多々あった。 そうしていた頃の自分は凄く楽しかったし、満たされてもいた。……幸せだった。 だが、それに巻き込まれた他の人は、幸せだったのだろうか。 そう考えて、ギーシュはハッとなった。 多くの人を喜ばせるのが己のモットーだと思っていたが、その実は自分の欲望を満たすことしか頭になかったのではないだろうか。 ケティの涙を思い出す。 何人もの女の子をとっかえひっかえにすることが、どれだけ女の子の尊厳を傷つけるか、自分は理解していなかったのではないだろうか。 ただ自分のモットーが満たされればそれでよかっのでは? 本当に他人を喜ばせるということがどういうことなのか……自分は分かっていなかったのだ。 ルイズほどではないが、それなりにプライドの高いギーシュにとって、それは認めたくない事実であった。 しかし、モンモランシーとの一件が、彼を幾分謙虚な気持ちにさせていた。 「僕は……自分勝手だったのかな?」 不安げな口調で問うギーシュに、シエスタは首を横に振った。 「わたくしの口からは申し上げかねます」 「そうだろうね。少し意地が悪い質問だったよ」 貴族であるギーシュに対して、平民のシエスタが、『あなたは自分勝手です』なんて言えるはずもない。 場を繕って否定して見せても、白々しく見えるだけだ。 ギーシュは珍しく、シエスタの立場を鑑みていた。 「ですが……」 「?」 「間違っているとお思いなのでしたら、自分を変えてみるのも一つの方法かと存じます」 「ハハ……それができたら苦労はしないよ」 自分を変えるということは、つまり、今までの生き方を捨てるということである。 たった一人の女の子のために、これまでの楽しい暮らしを投げ出して未知への一歩を踏み出すには、ギーシュはまだ若すぎたし、臆病すぎた。 (幸せ、か……) ギーシュはひとしきり笑った後、やがて瞑目して、夢の世界へと旅立っていった。 ――――――――――― 深夜の『女神の杵』亭。 殆ど全ての客が各自室に引っ込んだ今、扉の連なる廊下は人けが無く、静寂が支配している。 その静寂というルールを破らぬようにして、廊下を進む一人の少女がいた。 トリステインではまず見かけない蒼色の髪に、自身の身長よりも大きな、節くれ立った杖を持つ彼女の名は、タバサといった。 キュルケが寝込んだ隙をついて、こっそり部屋を抜け出したのであった。 スルスルと、物音一つたてずに廊下を移動する様子は、実に手慣れたものであった。 気配も殆ど感じさせない彼女の存在は、誰にも気づかれまい。 やがて、タバサは一つの扉の前でその歩みを止めた。 廊下に扉は数多くあったが、その一つだけは何とも異様な雰囲気を放っていた。 DIOの部屋であった。 シエスタが用意したというその部屋は、一人だけで使用するには些か豪華過ぎるものであった。 本来なら、相応の煌びやかな空気を醸し出してくれるはずの豪華な扉は、 獲物を待ちかまえて、大口をあけている化け物のように、タバサには思えた。 ならば、今ここに立っている自分は、獲物ということになるのだろうか? 心の片隅で浮かんだ嫌な想像を無理やり抑え込んで、タバサは自分の杖をギュッと握りしめた。 タバサがキュルケとともにラ・ロシェールくんだりまで来たのには、もちろん理由があった。 その理由のために、こっそりDIOの部屋に向かったタバサだったが、 この扉の向こうにDIOがいると思うと、自然と浮き足立ってしまうのだった。 「…………………」 暫くDIOの部屋の前で逡巡したのち、タバサは深呼吸をした。 会う前から、場の空気に飲み込まれては駄目だ。 決心したタバサは、それでも恐る恐るといった仕草でドアをノックしようと手を伸ばした。 だがその瞬間――――― 『何を迷う』 おどろおどろしく扉の向こうから響いた声に、タバサはぎょっとした。 慌てて扉から数歩距離をとる。 全身から嫌な汗が吹き出してきた。 すぐにこの場を立ち去るべきだと、全身が警告を発していたが、 タバサは一歩も動くことができなかった。 気がついたら扉の方に意識を飛ばしている自分がいた。 この扉をあければ……。ゴクリと唾を飲み込む。 『どうした、早く入ってくるがいい』 だが、再び響いた身の毛もよだつ声に、抑えきれなくなったタバサの感情が爆発した。 自分はさっきまで、何ということをしでかそうとしていたのだろうか。 「…………いや!」 耐えられなくなり、次の瞬間タバサは駆けだしていた。 誰かに見られるかもしれないなんてことは、頭から吹き飛んでいた。 幸運なことに、バタバタと騒がしく廊下を走るタバサに気づいた客はいなかった。 自室に戻ったタバサは、そのままの勢いでベッドに飛び込み、布団を被った。 しかし、どれだけ物理的に離れていようが意味はなかった。 精神面から襲い来る何かに、タバサは少し震えた。 夜にアイツに会うのは駄目だ。夜に来たのは間違いだった。夜は取り返しがつかなくなる。夜は駄目だ。 夜は………………………………………… ……………………………けど、昼なら? 理性が感じる恐怖とは裏腹に、タバサの心は確実にDIOを求めていた。 to be continued……
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フーケ捕縛から数日経ったが未だイタリアへ戻る手段は見つかっていない。 左手のルーンは『ガンダールヴ』の印というもので始祖ブリミルの使い魔で武器全般に精通していたらしく パンツァーファウストの使い方が分かったのもこれの効果らしかった。 グレイトフル・デッドを使い敵を排除してきたため今まで気付けなかったのだが武器なら特になんでもいいらしく発動するらしい。 「ふん…スピードとパワーが上がっているが…本体に上乗せされる形みてーだな」 デルフリンガーを持ち試してみて確認できたのは 1.本体のスピードとパワーの上昇 2.武器の使用方法が理解できる この二つだ。 スタンドも同時に発動させてみるが、グレイトフル・デッドの破壊力と精密性とスピード自体は上がっていない。 直触りに関しては、本体が直触りを仕掛ければ済むが片手が塞がってしまう事で攻撃は弾いたりする事は可能だが直は片手のみで行う事になる。 「本体のパワーアップか…スタンドの能力を重視するか…か。両方できりゃあいいんだが、そう都合よくはいかねぇもんだな」 錆を落としながら (リゾットならメタリカですぐ落とせるんだろうがな) と思っているとデルフリンガーが口を開いた。 「兄貴ィ、兄貴の横に居る化物は何なんだ?」 「……オメー、スタンドが見えているのか?」 「見えてるというより感じていると言った方が正しいぜ」 「まぁ剣が話してる事自体異常だからな…感じ取れても不思議じゃあねぇが」 「それにしてもおっかねぇよなぁ…夜に他のヤツが見たらぜってー茶ァ出すね」 「違いねぇな」 茶の部分はスルーし、己のスタンドを改めて見る。 下半身は存在せず胴から下は触手が『ウジュルジュル』と言わんばかりに蠢き無数の眼を持ちそこから煙を出しながらにじり寄ってくる化物を夜に見れば誰だってビビる。 ペッシが初めてグレイトフル・デッドを見た時なぞ本気で泣いていた事を思い出す。 もちろん説教に突入したのは言うまでもないが。 錆落としと印の効果を試し終えると、爆睡かましているルイズを叩き起こし授業へと向かう。 正直興味は無いが『護衛』継続中であるからには一緒に出ておかねばならない。 適当にルイズの近くの席に座る。 さすがにこの段階になって誰もその行為にケチ付けようとする者は居ない。 そこに新手の教師が現れる。 長めの黒髪に漆黒のマントを纏い冷たい外見と不気味さを併せ持った男だ。 「…雰囲気がリゾットに似てるな」 「リゾット?誰それ」 「オレ達のリーダーだ」 男が『疾風』のギトーと名乗った。 外見に反して結構若いらしく、その辺りもリゾットに似ている。 だが、性格そのものはリゾットとは大違いで一々人を挑発するような言い方をする。 (夜道に後ろから刺されるタイプだな) 率直にそう思う。 プロシュート自身、些細な恨みを積もらせ殺されたヤツを腐る程見てきた。 挑発に乗ったキュルケが直系1メイル程のファイヤーボールを作り出しギトーに向け放つが ギトーは腰に差した杖を引き抜きそのまま剣を振るような動作で烈風を作り出し火球を掻き消す。 その烈風に吹っ飛ばされキュルケがこっちに吹っ飛んでくるが避けるのも何なので一応受け止めた。 それが元でルイズとキュルケが睨み合いを始めるがギトーはそれを無視するかのように解説を続ける。 「『風』は全てをなぎ払う。『火』も『土』も『水』も『風』の前では立つことすらできない 試した事は無いが『虚無』さえも吹き飛ばすだろう。つまり……『風』が最強だぁぁぁ!はらしてやるッ!!」 もちろん様々なタイプのスタンド使いと戦ってきたプロシュートはそうは思わない。 地形、相性、策、他にも色々あるが様々な要因で勝敗が変わる事を身を以って知っている。 グレイトフル・デッドの老化がギアッチョの氷に通用しないがリゾットの磁力では氷を突破できる事を。 そしてまたリゾットが姿を消したとしても自分の能力ならば見えなくとも攻撃できる。 ホルマジオがよく言っていたが要は使い方次第で幾らでも変わるのだ。 ギトーがヒートアップしながら 「カスのくせによォォ~~ええ!ナメやがって、てめえ!」 と呟いているがそこに妙な格好をしたコルベールが乱入してきた。 プロシュートが思わず(どこのルイ14世だ)と突っ込みを入れたくなるぐらい不似合いな格好で。 その慌てている様子から見てかなりの大事なのだろうと予想を付ける。 コルベールが授業の中止を告げると教室が歓声が上がった。 「本日先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニア御訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸されます」 早い話偉い人が来るから出迎えの準備を生徒全員で行うという事である。 魔法学院の正門を通り王女を乗せた馬車を含めた一行が現れるのと同時に生徒達全員が杖を同時に掲げる。 北の将軍様も驚きのタイミングだ。 オスマンが馬車を出迎え絨毯が敷かれ馬車の扉が開き先に男が先に外に出て続いて出てきた王女の手を取った。 同時に生徒達から歓声が沸きあがる。 「随分と人気があるみてーだな」 「当然じゃない、トリステインの花って言われてるのよ」 だがプロシュートの興味は王女より鷲の頭と獅子の胴を持つ幻獣に乗った羽帽子の男を見ていた。 (マンティコア…いやグリフォン…だったか?メローネがやってるゲームで見た事あるが 貴族ってのはマンモーニばかりだと思っていたが…やりそうなのも居るじゃあねーか) ルイズやキュルケもその男に視線がいっているのだがプロシュートも見ているため気付いていない。 三者三様の視線が浴びせられている事も気付かず男は去っていった。 夜になり部屋に戻ったルイズとプロシュートだがルイズがベットに腰掛けたまま動こうともせずポケーとしている。 別にプロシュートにとってはどうでもいいのだが何時もと違う様子にはさすがに違和感を感じていた。 しばらく何もしないでいると、プロシュートの顔が瞬時に暗殺者のそれに変化したッ! (……一人だが…抜き足差し足でこっちに向かってきてるな) その時ドアがノックされた。 規則正しく長く2回、短く3回ノックされそれを聞いたルイズがハッと気付いたかのように反応した。 だがスデに警戒態勢に入っていたプロシュートの方が早い。 急いで着替えているルイズを尻目にドアを慎重に開ける。 真っ黒な頭巾を被っていた人が部屋に入ってきたのを見た瞬間――― 「きゃ……ッ……ッ…!」 プロシュートが流れるような動きで叫ばれないように口を押さえ押さえ込むようにそいつを地面に押し付けていた。 「…オメーみたいにあからさまに怪しいヤツってのも今時珍しいが そんな格好で人の部屋に入ってくるって事は賊とみなされても仕方ないって『覚悟』してきてるんだろうな」 言いながら、頭巾を剥ぐがそれより先に何かの魔法を使われた。 「ーーーッ!グレイトフル・デッド!」 何かの魔法を使われたからには老化させるしかない。その結論に達し直触りを仕掛けようとした刹那―― 「やめてプロシュート!そのお方は姫殿下よ…!」 慌ててそう叫んだルイズが膝を付いた。 その声に瞬時に反応し直触りを中止する。 頭巾を剥いだ顔を見る、興味が無かったためあまりよく見ていなかったが確かに昼間見た王女だった。 それを確認し、拘束を解くがまだスタンドは何時でも触れられるようにしてある。 アンリエッタが多少苦しそうに、だが凛とした声で言った。 「お久しぶりね…ルイズ・フランソワーズ」 ←To be continued 戻る< 目次 続く
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明るくなってきた頃妙な重みを感じ目を覚ましたが、前。 「なんだこりゃあ…」 正確に言うと、視線の斜め下75°の先に黒い髪。 シエスタの頭があって本気でビビった。 おまけに顔をこちら側に向けているため、スーツの胸のあたりに思いっきり涎の跡が付いている。 普通に考えると、ちょっとばかりアレでナニな状況で人に見られたらモノ凄く誤解されそうだが 正直、今のシエスタさんには魅力もクソも何も無い。 素面でやってるのなら平均値を上回る胸が当たっているだけに効果はそれなりにあるかもしれない。 …が、ここに居るのは潰れた酔っ払いの成れの果て。 脱いだら結構凄いのにそれなりに重要な局面で悉く空回りしているのが勿体無い。 したがってプロシュートにとって、今現在のシエスタも手の掛かる弟分扱いである。不憫。 もっとも、この唯我独尊がデフォルトな元ギャングに目上として扱われる者はそう居ない。 暗殺チームにおいても、リゾットが唯一それに該当し、後はペッシを除いてほぼ横。 ましてリゾットが居ないこの地においては、表面上はともかく芯のとこでは『平等に価値が無い!』と言わんばかりに目上という扱いが無い。 ルイズはもちろんのこと、アンリエッタですらまだまだ甘ったれたマンモーニで、オスマンに至ってはただのスケベジジイという扱いである。 老若男女、生物であるならば一切合財の区別無く平等に老化させるというスタンド能力はここから来ていると見て間違いないはずだ。 首を曲げるとゴギャンと良い音がした。 妙な体勢で寝たというのもあるだろうが、人一人がもたれ掛かってる状態が続いていたのだ。 一瞬、どういう状況か理解できずに、頭の中にメローネがパク…インスパイアされて作った『生ハム兄貴』なる歌が流れたが、思い出した。 「ああ…クソッ…!こいつが潰れて離れなかったんだったな…」 さすがに、もう掴まれてなかったので引っぺがしてベッドに運んでやる。 本来なら放り投げるとこだが、寝起きは低血圧のため若干対応が柔らかい。 イタリア人的に考えれば、色々と何かやっててもおかしくないが ご存知プロシュートはそういう方面では全く以ってイタリア人的要素を持っていないため、メローネのような事にはなりはしない。 ただ、ご存知兄貴気質のため、これが少なからずとも世話になっていたシエスタでなければ、問答無用で蹴りが入っているところである。 少しすると、苦しそうな寝息を立てはじめる。 「そりゃあ、潰れるぐらい飲めばな…」 床に転がっている酒瓶を見て呆れ気味に呟いたが、シエスタは何かうなされているような感じだ。 「…あうう…よ…妖精さんが……圧迫…祭り……」 「このヤロー…圧迫されてたのはこっちだってのによ」 まぁ、なんのこっちゃとも思ったが『圧迫祭り』という言葉に心当たりは無い。 ただ、妖精さんは心当たりがあるので、機会があればついでに聞いてみる事にしようと決めて部屋の外に出た。 「っはうあ!……今…おぞましいほどの悪寒が…何事!?」 襲撃を受けた暗殺者かというぐらいの速度で飛び起きたのはご存知エレオノールだ。 妖精さんは広まっていなかったが、新たな火種を抱えてしまいダブル・ショックである。 だがッ!鞭を振るっている時に僅かながらだが高揚感があったのも確かッ! 無論、『女王様』などという称号は頂きたくもないし、認めたくも無いので無かった事にしてしまっているが。 それでもッ!背筋にゾクッときたものがあるのも事実である。 グビィ 喉の奥の方で生唾飲み込むと、御愛用の鞭を手に取り振ると先端が中空を斬り風切り音が鳴る。 …が、今現在は何の感情も沸いてこない。 「気のせいね…まったく…それもこれも全部あの平民のせいだわ…」 重ねて言うが、一応あれでも貴族の子弟である。 とりあえず、まだ薄暗い時間帯だ。普段忙しい中での久しぶりの帰省である。もう少し寝なおす事に決めた。 なお、夢の中で『圧迫祭り』が開催されていたのは言うまでも無い。 「あう…いたた…」 プロシュートが出てからおよそ一時間後ようやくシエスタが目を覚ましたが、二日酔いであろう頭痛を感じ頭を押さえていた。 状況確認のために辺りを見回すと転がっている酒瓶が視界に入り、一応の理解はしたようだ。 「そう言えば…夕飯の時に一杯ぐらいならって思って…ど、どうしよう…もし失礼な事でもしてたら…」 失礼どころか一犯罪犯しかけたのだが、酔っ払いには二種類ある。 酔ってる時の記憶が綺麗に飛んで何も覚えていないタイプと、酔ってる時の記憶がしっかり残って起きてから後悔するタイプに分かれる。 シエスタは前者と見て間違い無い。 「でも、なにか良い事があったような…」 必死になって記憶を探ったが、思い出せそうにない。 一つだけ、誰かを掴んで一緒に居たような気はしたが。 「夢だわ…夢!……たぶん」 リアルでやってたらと思うと、顔から火が出る思いだったので夢だと思い込む事にした。 もっとも、現実だったらそれはそれで良かったのだが、相手は手の届かない所に行ってしまってるだけに夢としか思えなかった。 が、それはそれ。 未だ戻ってくると信じている。当の元ギャングがどう思っているかは知らないが強い子である。 ただ、シエスタの不幸は酒癖が悪い事であり、二日酔いになるまで飲んでいなければもう一時間ばかり早く起きれてご対面できたかもしれない。 まあ、その場合は説教確定なので運が良いのか悪いのか。 そうしているとシエスタが少しばかり悶え始めた。 どうも夢と思っている内容から妄想が発展気味になっているようだ。 「……や、やだわ、わたしったら…で、でも」 R指定一歩手前…もとい、突入していたのだが、まぁ例によってそういう小説を読んでいたのだから仕方無い。 妄想力(もうそうぢから)は、かなり高い方らしい。突っ走るタイプとみて間違いない。 生憎のところ部屋には一人。止める者なんぞいやしない。 もうスデに頭の中では幸せ家族計画まで構築されており、色んなデートプランが練られている。 本人が聞いたら説教間違いなしだが、突っ込む事ができるものは存在しないのだ。 自重という文字は今現在、存在すらしていない。多分、今のシエスタはエコーズACT3やヘヴンズ・ドアーですら止められない。 おかげさまでテンション絶賛上昇中でカトレアが扉をノックする頃には、タルブで二人してワインを造っているというとこまでに発展していた。 廊下を適当に歩いていると随分と騒がしくなってきた。 大体の事は分かっている。ルイズの親父、つまり、ヴァリエール家公爵が帰ってきたらしい。 「さて…あの頑固親父を説得できるかどうか見物だな」 まー無理だろうとは思うが、やらないよりマシというとこだ。 防御側が五万に対して侵攻側が六万。数の上では勝っているが本来、侵攻側が確実に勝つには防御側の三倍の兵力を要する。 急な侵攻計画で準備期間も足りず、学生を徴用するようでは無謀だとパパンは反対している。 プロシュート自身、戦略的に正論だと思わんでもないが この際、やるからには精々ハデにやらかして陽動してくりゃあいいと思っている。 つまるとこ、説得できようができまいが、どうなろうとどうでもいいということだ。 だが、そこに一つ疑念というか気にかかるものが浮かんだ。 (おいおい…オレは何時からロハで仕事するようになったんだ?) 自分でもそう思わないでもないが無理も無い。 パッショーネに属していた時でさえ、一応の報酬はあった。 スデに恩義も返しフリーな身である以上実利的な面からしてクロムウェルを殺る理由が無いのだ。 ただ、感情的な面から言えば別だ。 アンドバリの指輪の件で大分ムカついているのである。 前ならば、報酬無しで動くなぞ考えられなかったし、基本的に感情に流される事無く一切の区別無く対象を始末してきた。 組織に敵対したのも、組織から不当な扱いを受けたからというチームとしての実利的な面から取った行動だ。 本来なら、アンドバリの指輪の件では、自分や借りのあるヤツが直接害を蒙っていないので感情のみで動く理由も無かったはずだ。 だからこそ、そこに生じた矛盾に多少戸惑っている感はある。 「やれやれ…考えたところで仕方ねーな」 そのあたりは変わったつもりは無いが、それは自分でそう感じているだけで外から見ればどうなっているか分かったもんではない。 リゾットあたりが、この状況下におかれていたらどうすっかなとも思ったがそんな仮定を考えても仕方無い。 とにかく今は、濃いオッサンのために掃除なんぞする気も無いので昼頃までバックレる事に決めた。 この元ギャング、雇われている身でありながら実に自由人(フリーマン)である。 空を流れる雲を寝ながら眺めているプロシュートだったが、未だ警戒は怠ってはいない。 場所は池のある中庭の小島の影。 城の中から死角でサボるには非常に適切な場所であるため、結構気に入っている場所である。 バレたらバレたで表面上適当に『すいませェん』とでも言っときゃいいと思っている。 まぁ、バックレると言っても特にする事もなく、何も考えてはいない。ただ単に空を見ているだけだ。 実際のとこ、ここまで空を見てみるのも久しぶりだ。 今までやる事成す事全てにおいて血の臭いが漂っていたが こういうのも性には合わんがたまになら良いかもしれんと思ったとこで足音に気付き、軽くその方向を見ると思考を呼び戻し瞬時に行動させる。 ルイズが半泣き状態でこちらに向かってきているからだ。 さすがに、こいつにバレたら洒落にならんという事で身を隠したが、ルイズは小船の中に潜り込み毛布を被ると本格的に泣き始めた。 どうやら、パパンの説得は見事失敗したらしい。 放っておいてもよかったが、性分からして、こういうのを見るとつい説教しに出ていきたくなる。 「あー、クソ…鬱陶しいな。この腑抜けがッ」 遠い暗殺より目の前の修正…もとい教育。 一発殴って気合入れてやろうかとも考えたが、それをやると、今までやっていた労苦が水泡と帰す。 不測の事態でバレるのは致し方ないとしても、自分からバラすなぞ最たる愚考だ。 石で勘弁してやろうとし、適当な大きさの石を掴み投げようとしたが、また足音が聞こえた。 こちらも見知った顔だ。 昨日酒をくれてやったばかりのマンモーニ。 それが池に入り、ルイズが入った船の毛布を剥ぎ取りなにやら言っている。 細かい事までは聞こえなかったが、カトレアが馬車を用意したらしいが、何故かルイズが拒否している。 今にもドシュゥーーz___という音を出しながら投げようとしていた石を後ろに捨てるともう少し様子を見る事にした。 「いくら頑張っても、家族にも話せないなんて。誰がわたしを認めてくれるの? 皆、わたしの事なんて魔法が使えない『ゼロ』としか思ってない。なんかそう思ったら、凄く寂しくなっちゃった」 ルイズはそう言ったが、一人だけ自分を相応に認めてくれていた者が居た事は知っているが それは、もうここには居ない。 才人が着た時シルフィードの夢で見た内容と被って思わず頭を押さえたのだが 今になってみれば、まだ夢と同じように説教された方が良かったかもしれない。 「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから、ほら立てっつの」 さっきよりも小さくなったルイズを見て、何かに本格的に目覚めそうな才人がそう言ったが 自信とやる気がほぼ『ゼロ』になっているルイズにはあまり意味を成さない。 「何が『認めてやる』よ。上っ面だけで嘘つかないで」 「嘘じゃないっての」 「…汗かいてるじゃない。今回の戦だってどうせ姫様のご機嫌取りたいんでしょ。キスなんてしてたし」 非常に冷たい声だ。DISCが刺さっているのならホルスかホワイト・アルバムだろう。 「ばば、馬鹿お前、あれは成り行きで……」 「成り行きでキスするの?へぇ~そぉー。もう放っといてよ」 言い訳無用な感じで言葉に詰まった才人だったが、続くルイズの言葉にいきなりキレた。 ルイズが『主人をほったらかして何やってるのよ…』と小さく呟いたのだが、才人には妙に大きく聞こえたのだ。 ルイズを主人にするのは使い魔たる才人だが、それはここに居るから才人の事では無い。 ルイズは思わずそう思ってしまって口に出ただけだが、先代。つまりプロシュートの事だ。 いたがって対抗心全開の才人からすれば『こうかは ばつぐんだ!』である。 「バカか?お前は!」 「なによ!誰がバカよ!」 「じゃあ大バカだ!誰か好き好んでお前みたいなわがままでえったんこのご主人様の使い魔やってると思ってるんだっつの!」 「か…!誰が板よ!よ、よくも言ったわね!この…犬!」 「いや、板とは言ってない!でも何度でも言ってやる! 正直な、俺だって戦なんて行きたくないし元の世界に帰りたいんだよ!そんなに前のヤツがいいなら、そいつと行けよ!」 「だったら帰ればいいじゃない!そうすればもう一度サモン・サーヴァントができるわ!」 売り言葉に買い言葉だが、二人とも似たタイプだけに止まらないし並大抵の事では止まらない。 ルイズとしてはポロっと口にしただけで、才人も先代の名前を出したからこうなっているが、両者とも本心ではない。 「……っかー、見てらんねぇ。痴話喧嘩じゃあねーか」 横で聞いている方からすれば、ガキ同士の喧嘩だ。それもかなりレベルの低いやつ。 思いっきり聞かれている事なぞ露知らず喚き散らす二人を見て呆れたものの これ以上ここに居る気も無いので見付からないように中庭から離れたが、少し目が暗殺者のそれに変わった。 池の方を見るとカトレアを除いたヴァリエール家御一行とほぼ全ての使用人が池を取り囲むようにしている。 理由は分からんが、なんかやったのだろう。 体験した限りガンダールヴなら大丈夫だろうとも思ったが、考えてみれば才人は丸腰だった。 「こいつは…『HOLY SHIT』っつーんだったか?ありゃ死んだな」 武器が無ければ一般ピーポーである才人なぞ、まな板の上の鯉。まさに俎上の魚だが あのウルセー剣を渡すつもりは無い。あんなのに知れたら一発でバラすだろうからだ。 回収するにしてもそのまま盾として使うつもりでいる。 無ければ向こうは困るだろうが、こっちだって困る。 一国のボスを殺るからには、それ相応の下準備というか、明確な弱点と能力特性があるだけにできる限りは伏せておきたいのだ。 ホワイト・アルバムやマン・イン・ザ・ミラーなら、こんな面倒な事せずに楽でいいのだが。 無論、ここで老化を使うと確実に巻き込んでバレるので、使う事はできない。 ルイズ達自身で乗り切って貰わにゃならんのだが、どうやらそうもいかないようだ。 何かが池に落ちた音がしたが、これはルイズが才人を突き落としたせいらしい。 続いて、やたら威厳のある声が聞こえてくる。 「ルイズを捕まえて塔に監禁しなさい。一年は出さんからな。 で、あの平民な。えー、死刑。メイジ36人集めてウィンド・カッターで輪切りにして瓶に詰めて晒すから台を作っておきなさい」 「かしこまりました」 モノ凄く覚えのある処刑方法を聞いて、決めた。 殺しはしないが、そのうち一回シメると固く誓う。 直接手は出せないので、まず、前のように自身を老化させ、適当なやつから武器を奪う。 何か言いたそうだったが夢の世界へと無理矢理ご出席して頂く事で解決した。 ルイズは小船のなかで半分呆けているので丁度いい。 取り囲まれてパニクっている才人目掛け剣を投げた。 「やべぇかもな…」 淡々とギャング的処刑法を命じるヴァリエール公爵を見て本気でヤバイと思い始めたが 急ぎだったのでデルフリンガーは持ってきていない。 今にも『ズッタン!ズッズッタン!』というリズム音が聞こえそうだったが、そこに風切り音がして目の前に剣が一本抜き身のまま突き刺さった。 思わず飛んできた方向を見ると、昨日見たばかりの顔を見て少し躊躇したが目が合った。 そうすると、親指で自分の後ろを指差し、続いて同じように親指で首を掻っ切るように走らせ、それを下に向けた。 『さっさと行かねーと、オレがオメーを殺す』 意味合いは違うが、助けてくれたと判断して剣を引き抜くとルーンが光る。 放心しているルイズを肩に担ぐと走り出す。 すれ違う瞬間に頭を下げ侘び入れながら駆け抜ける。 元使い魔としては別段驚く速度ではなかったが、それを知らない連中はおったまげている。 「ななな、何しとるんじゃああああァーーーッ!」 一拍置いてヴァリエール公爵の素敵なシャウトが響き渡るが、もうスデに遠い所まで行ってしまっていた。 放心したところを背負われたルイズだったが、使用人の一人とすれ違い、顔を少し上げ、その背を見た時少し違和感を感じた。 何故だかよく知っている気がしたからだ。 だが、背負われているため、それはどんどん小さくなる。 「ま、待って!戻って!」 「無理言うな!」 戻って確認したかったが、戻れば『輪切りの才人』が出来上がる事になる。 諦めたのか大人しくなったが、やはり妙に気になっていた。 この前の雨で辛うじて生き残っていた煙草に火を付ける。 煙草を吸うときは、ムカついた時と一仕事終えた時であるから、一応ミッションコンプリートである。 公爵の素敵なシャウトが轟き、そっちの方に目をやるとプッツンした公爵と使用人連中が後を追い、蒼白を通り越して白くなった顔の公爵夫人がブッ倒れ運ばれている。 暗殺を達成したような気分で煙を吐き出すと、その煙の向こう側から良い感じに強張った顔のエレオノールが音を出しながらやってきた。 「…どういうつもり?」 「何がだ?」 「あの平民に剣を投げ渡した事よ!」 見られてたが、少し遠かったので老化してた事はバレていないようだ。 「アレか。言うだろ?オレは馬に蹴られて死ぬってのはゴメンなんでな。大体、妹の心配するより先に、てめーの方を心配した方がいいんじゃあねぇか?」 「くぐ…うるさい!今日という今日はどうなるか分かってるんでしょうね。父様や母様に知れたらクビじゃ済まないわよ」 「気にしなくてもいいぜ。今日で辞めるからよ。ああ、そうだ。ついでに一つ聞きたかったんだが…『圧迫祭り』って何だよ?」 どの道、これ以上ここに居ても得る物は何も無さそうだ。 そろそろ、別の場所で動くべきだろう。いっその事アルビオンへ乗り込んでもいいが、船が出ているどうか微妙なところだ。 「な…何故それを…!」 またしても息を吐き出し崩れ落ちたエレオノールだが、それを見て何かあるなと思い追撃を仕掛ける事にした。 「人それぞれだからな、知られても死にはしねぇだろ」 「ああ…あのメイド…よりにもよってこんなヤツに……!」 例によって聞いちゃいないようだ。 「まぁ気にすんな。強く生きろよ」 もう完全に勝ったと思いエレオノールに背を向け煙草を吸ったが、殺気を感じた。 後ろを振り向くと手に鞭を持ちゆっくりと立ち上がっている。 「ヤッベ…やりすぎたか?」 「フフフ…口封じしないと…そう、まずは…」 言うが否や鞭が振るわれる。 それに当たるプロシュートではないが、エレオノールの妙な迫力には若干引いている。 「おい、戻ってこい」 こいつも、ルイズと同じと判断したが、どこか意識がブッ飛んでいる感じがしないことも無い。 どこか意識が飛びながら鞭を振るうエレオノールだったが、あの時感じた高揚感を感じていた。 (これよ…!これでないと!!) 今はまだ鞭が当たっていないが、当たればそれが確証に変わるという事は分かっている。 理性の面では認めたくないが、その理性がブッ飛んでいるので止まりたくても止まらない。 半分トリップしたかのような顔で鞭を振るうエレオノールを見て、そういう事かと判断したが、このままされるままというわけではない。 「なんで周りにこんな面倒なヤツしかいねーんだよ…いい加減戻って…来い!」 「か…ッ!」 非常に良い音がしたが、それもそのはず。 重なるようにして拳がエレオノールの鳩尾に入っているからだ。 ギャングを辞めたとは言え、その力はまだまだ衰えてはいない。 「ベネ(良し)…ま…そのうち起きんだろ」 一呼吸置いて、今度こそ間違いなくエレオノールが崩れ落ちた。 寝ている面だけなら、何時もキツイ顔してるヤツには見えないんだがな。 そんな事考えていると跳ね橋が上がる音が聞こえてくる。 そこまで面倒見きれんとして、橋が上がる様を見送っていたが、鎖が変色し土に変化した。 『土くれ』ことフーケを思い出したが、そんなもんがここに居ない事は確認済みだ。 この屋敷であいつらに手を貸しそうなメイジと言えば一人しかいないので正体はすぐ分かったが。 街道の向こうに遠ざかる馬車を窓から見つめたカトレアだったが、激しく咳き込んだ。 遠距離で『錬金』を唱えたからで、遠距離型スタンドを無理に使ったような感じだ。 普通なら精神力の消耗だけで済むが、カトレアの場合肉体的にもかなり疲労する。 少し意識が遠くなって倒れかけたが、間髪入れず猫草が空気クッションでフォローしている。 「ありがとう、大丈夫よ。もう平気」 「ウニャン」 そう言って猫草に笑みを浮かべると丸まって寝始めた。 とことん自由な生物(ナマモノ)である。 完全にこの家に居付く気だ。まぁベースは植物なので動けないのだが。 そこにいつの間にか扉近くに立っていたプロシュートが壁にもたれながら声をかける。 ヴァリエール家の使用人が着ている服ではなく、お馴染みのスーツ姿だ。 一応才人の部屋も回ってきたがデルフリンガーは無かった。一応回収はされたらしい。 「よぉ、アレはお前か。中庭の場所教えたのもそうだろ?面倒見がよすぎるってのもどうかと思うぜ」 「あらあら、あなた程じゃないわ」 兄貴と呼ばれているだけの事はあって、面倒見のよさにかけては定評があるプロシュートだ。 笑いながらそう言ってきたがぶっちゃけ反論の余地が無い。 「ちっ…言い返せないってのが洒落なってねぇ」 一応、本人もその辺りは自覚しているが、最後まで調子を狂わせてくれるヤツだ。 天敵というのはこういうのをいうのだろう。 もちろん、殺ろうと思えば殺れる相手だが、顔見るだけで毒気を抜かれてしまうような感じだ。 なんというか、オーラそのものが違う領域で同じ生き物と思いたくない。 「あいつらはどうした?」 「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」 その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。 笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。 包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが そうしていると、カトレアが窓から手を出し2~3語りかけると、空へと飛び立って行った。 布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。 「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」 「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」 例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。 「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」 今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。 仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。 そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。 「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」 そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。 「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」 「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」 無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし 守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。 頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。 レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。 その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。 「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」 本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。 「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」 そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。 「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。 誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」 出来て当然と思い込む。 精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。 病は気からという諺もある。 やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。 しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。 「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」 そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。 寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。 相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。 今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。 やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。 プロシュート兄貴―無職! エレオノール姉様―『未』覚醒! 猫草―ヴァリエール家に根を張る 戻る< 目次 続く
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11話 校庭に突然現れた巨大ゴーレム。 全長30メイルはあろうかというその巨体の肩には、一人の女が立っている。 この女――フーケは、ほんの数秒前まで校庭の物陰に隠れて盗みの算段を立てていた。 なのにその物陰から出てきたのは、予想もしなかった好機がフーケに訪れたからに他ならない。 その好機とは、宝物庫の外壁に突然出来た無数の亀裂。 ホワイトスネイクの手によって逃れようの無い死に追いやられたラング・ラングラーの死に際の攻撃 ――ジャンピン・ジャック・フラッシュの鉄クズの砲撃によるものだ。 自分では傷一つ付けられないだろうと見積もっていた宝物庫の外壁。 それを突然現れた男が、恐らくは狙ってやったことではないのだろうが、容易く損傷させてしまったのだ。 勿論フーケは驚いた。 だが名うての盗賊として養った判断力が、これが逃さざるべきチャンスであるとすぐに知らせた。 そしてすぐにルーンを唱え、魔法を完成させ、ゴーレムを作り出したのだった。 「・・・・・・何ダ、アレハ?」 ラングラーとの戦いで満身創痍になったホワイトスネイクが呟く。 スタンド使いとの戦歴20年にも及ぶホワイトスネイクにとって、未知なる敵と戦う事は日常茶飯事である。 しかしこれほどまでに巨大で、そして圧倒的なパワーを感じさせる敵と遭遇したのは、これが初めてであった。 「あれは・・・ゴーレムよ」 ホワイトスネイクの呟きに、その近くにいたモンモランシーが答える。 「ゴーレム?」 「土のメイジが作る人形みたいなものよ」 「人形・・・トナルト、ギーシュガ作ッテイタ『ワルキューレ』トヤラと同列ノモノカ?」 「ええ」 「ダガアマリニモ大キ過ギルゾ」 「分かってるわよ、そんなこと! あのサイズ・・・わたしは土のメイジじゃないからよく分かんないけど、ドットやラインじゃきっと無理よ。 少なく見積もっても20、30メイルはあるんだから・・・」 「最低デモ、『トライアングル』ダト?」 「そういうことになるわ。どっちみちわたしたちじゃ無理ね・・・あんたもボロボロだし。 どこかに隠れてる方がよさそうね」 そう言ってモンモランシーは怯えた目でゴーレムを見上げる。 「肩ニ人ガ乗ッテルゾ。アレガ操作シテイルノカ?」 ゴーレムの肩の上に立つ人影を目ざとく見つけたホワイトスネイク。 「乗ってるの? わたしには見えないわよ」 「人間ノ視力デハ無理カ」 「しょうがないじゃない。あんたみたいな化け物じゃないんだもの」 「『化け物』ジャアナイ。『スタンド』ダ」 「どっちにしたって一緒よ。わたしみたいな人間からすれば、あんたは化け物に変わり無いわ」 「『感情的な人間』カラスレバ、カ」 「何ですって!?」 唐突に二人の間の空気が悪くなる。 そのとき―― 「ばばぶばびべぶべ! びびば! びびばぶばぶ!」 未だに水から出してもらえずにいたギーシュが激しく喚きだした。 「あ・・・・・・」 「オ嬢サンガ黙ラセタママデ放ッタラカシニシテオクカラ、今ニモ息ガ止マリソウダナ」 「う、うるさいわよ! あとお嬢さんとか呼ばないで!」 ホワイトスネイクに文句を言いながら、モンモランシーがギーシュに使った水の魔法を解除する。 その途端にギーシュを包んでいた水の塊が、ざばぁっと音を立てて落ちた。 「ゲ、ゲホッゲホ、ッ・・・た、助かったよ、モンモランシー」 「お礼なんていいから! さっさと逃げるわよ、ギーシュ!」 「そ、そうだね・・・ドットの僕じゃあ、あんな馬鹿でかいゴーレムはどうしようもないし・・・」 「そうよ! だから早く隠れるなり何なり――」 「だが断る」 「・・・はぁ?」 ギーシュが言い出したことの意味が分からず、唖然とするモンモランシー。 「このギーシュ・ド・グラモンが最も好むことの一つは、悪党から逃げるという提案に対してNO! と言ってやることだ・・・」 そう言っておもむろにバラの造花、もとい自身の杖を取り出すギーシュ。 そしてルーンを唱えようとしたところで―― ドシュン! どこからともなく飛んできたDISKがギーシュの額に刺さった。 そして差し込まれたDISKは、ギーシュが自分に何が起きているかを理解するよりも早く彼を昏倒させる。 「『命令』スル。1時間寝テイロ」 言うまでも無く、DISKを投げたのはホワイトスネイクである。 「ちょ、ちょっとあんた、ギーシュに一体何したのよ!」 「今カラ1時間寝ルダケダカラ気ニシナクテイイ。ソレヨリ・・・声ヲ出スナ。物音ヲ立テルナ」 そう言ってホワイトスネイクは自分の残り少ないスタンドパワーを、体の底から引きずり出す。 「ソシテ・・・コノ場カラ動クナ」 引き出したスタンドパワーを自分の周囲、半径10数メイルに集中。 そして「能力」を発動する。 まるでそこに誰もいないかのように、風が何者にも遮られずに吹き抜けているかのように。 偽装し、欺き、隠蔽する。 これがホワイトスネイクの能力、その3つ目の「幻覚」だ。 幻覚の対象を見た者の脳そのものに干渉し、 見たもの、嗅いだもの、聞いたもの・・・あらゆるものがホワイトスネイクが望んだものになる。 使いようによっては、記憶を奪い去ることよりも凶悪な能力だ。 ゴーレムの足が、ホワイトスネイクたちがいる場所から20メイルの位置に踏み込む。 ズシン、と地響きが立つ。 人影が立っている場所からなら、すぐにでもホワイトスネイクたちを発見できる状況だ。 人間のモンモランシーでさえ、ゴーレムの肩の上で、月明かりが人型に切り取られているのが分かるのだから。 モンモランシーがごくり、と唾を飲む。 どうか見つかりませんように。 そう願った瞬間、人影が頭をこちらに向けた。 思わず悲鳴を上げそうになるモンモランシー。 その口をホワイトスネイクの、ボロボロの手が塞ぐ。 「モ・・・モガ・・・」 「声ヲ出スナ・・・今ノ私ノパワーデハ・・・声マデモ誤魔化スコトハデキナイ」 塞がれた口でもごもご言いながらモンモランシーが抗議する。 人影はまだこちらに頭を向けている。 だが次の瞬間、人影は何も見なかったかのようにこちらから目をそらした。 それに従うようにゴーレムもまた一歩、地響きを立てながら踏み込んだ。 「見つから・・・なかったの? 思いっきりこっちを見てたのに・・・」 「ソウナルヨウニ私ガシタカラダ」 驚きを隠さないモンモランシーに対し、ホワイトスネイクは淡々と答える。 そうこうしている間にゴーレムは学院の校舎へと辿り着いた。 そしてその太い腕を振り上げると、宝物庫の外壁の、幾つものひびが入った部分に振り下ろす。 ドゴオオオォン! 学院中に響き渡る大きな音と振動を伴って、宝物庫の壁に大穴が開いた。 そして壁をぶち破ったゴーレムの腕の上を人影が素早く走り抜け、校舎に侵入する。 (ナルホド・・・アアシテ盗ミヲヤルノカ。 巨大ナゴーレムハ周囲ノ人間ヲ恐レサセ、ソノ場カラ退避サセル。 ツマリ現場ハガラ空キニナル。 ソコヲ狙ウ・・・トイウワケカ。 随分大胆ナ手口ダ。 ソノ場ニゴーレムヲ恐レナイヨウナ気骨アル者ガイレバ、自分モ危険ニナルノニナ・・・) その光景を見ながら、ホワイトスネイクが思考を巡らす。 やがて、人影が校舎に開いた大穴から出てきた。 その手には大きな黒い箱が抱えられている。 そして人影がゴーレムの掌の上に乗ると、ゴーレムはゆっくりとその巨体を動かし、 ズシン、ズシン、と地響きを立てながら去っていった。 ゴーレムも、人影も、最後までホワイトスネイクたちがそこにいたことには気づかなかった 「っはぁ~~、助かった・・・。」 それを見送って、モンモランシーが声を上げる。 ホワイトスネイクはゴーレムが十分に離れたのを見計らって、地面に横たわっているルイズを揺り動かす。 「マスター、起キロ」 「う、うん・・・・・・ッ! ほ、ホワイトスネイク! キュルケと青髪の子は!?」 意識を取り戻したルイズは、すぐにキュルケたちのことを口にする。 「重傷ヲ負ッテハイルガ、命ニ別状ハ無イ。ラング・ラングラーモ始末シタ」 「そう・・・よかった・・・・・・って、あの不届き者、殺したの!?」 「ソウダ。ソコニ奴ノ死体ガ転ガッテイル」 「・・・そう」 自分の使い魔が人間を殺したという事実を受け止めるルイズ。 そして自分の使い魔がした事を確かめるために、ホワイトスネイクが指し示した方向を見る。 「ッ!!」 凄惨な光景だった。 全身の血を一滴残らず周囲に撒き散らし、さらに全身が押しつぶされたかのようにベコベコになっているラングラーの死体。 そんなホラー映画顔負けのショッキング映像に加え、 ラングラーの血が自分にも降りかかっているのが分かった時には吐き気がこみ上げたが、 幸いにも消化しかけの物をゲロすることはなかった。 この一週間、ホワイトスネイクとのイザコザのために食欲が無かったのが功を奏したらしい。 「・・・あんた、一体何やったのよ?」 やっとのことで、喉から一言搾り出したルイズ。 「『ラングラーの体内気圧を限界まで低下させた』・・・トイウノガ私ノシタコトダガ、 ソレデハ分カラナイダロウカラ気ニシナクテイイ」 「気にするわよ。 ご主人様には使い魔がした事を知る権利があるわ」 「説明シタッテ分カルモンジャアナイシ、ソレニスル時間ナド無イ」 「何よそれ!」 むぅ~~、と唸るルイズ。 それを見て、これはまた険悪になるかな、と思ったホワイトスネイクは、 「起コスカ?」 キュルケとタバサを指し示してそう言った。 「バカ言わないでよ。重傷負ってるんなら起こしちゃダメに決まってるじゃない」 「分カッタ」 ホワイトスネイクは淡白に答える。 そしてそう言って周囲を見回したルイズは―― 「ちょっ、モンモランシー! あんた、何でここにいるのよ!?」 「それはこっちにセリフよ、ルイズ! ギーシュと二人っきりで歩いてたらいきなり変な奴と一緒に壁を突き破って出てきて、それにそれだけじゃないわ! あんたの使い魔、さっき言った奴と殺し合いまでしたんだから! わたし、心臓が飛び出るかと思ったわよ! ギーシュもギーシュであんたの使い魔のことを『あれは騎士だ!』とか訳分かんないこと言って興奮してたし・・・」 「え、ちょっとまって。ギーシュもいるの? あんた浮気されたから絶交だとか何とか言ってたじゃないの」 「一週間も経ったんだから許してあげてもいいかなーって思ったのよ! 別にいいじゃないの! わたしとギーシュの問題なんだから!」 「まあ、それはそうだけど・・・」 少々ヤケクソ気味のモンモランシーの剣幕に押されるルイズ。 ちなみに会話の当事者であるギーシュはまだおねんねの最中だ。 と、そうこうしてるうちに、ルイズはホワイトスネイクに、ものの見事に話をすり替えられたことに気づいた。 「ホワイトスネイク! あんたまだわたしが聞いたことに答えてないわよ!」 「ダカラサッキモ言ッタロウ。私ニハソレヲ説明スル時間ナドナイ」 「何でよ!」 「ラングラートノ戦イノ前ニ言ッタハズダ。 例エ生キ延ビタトシテモ、ソノ後自分デ自分ニ決着ヲ付ケルト」 それを聞いて、ルイズが固まった。 「何・・・ですって?」 「聞コエナカッタノカ? ツマリ私ハコウ言ッテイルノダ。『今から自決する』・・・トナ」 さも当然のように言うホワイトスネイク。 それを見て、ルイズは全部思い出した。 自分を主人と呼びながらも、自分がそれに足らない存在だと見なすかのような態度。 自分よりも優れた判断が出来るとでも言わんばかりの態度。 自分を、主人だと認めていない態度。 忘れていた怒りが、マグマのようにグツグツ煮えたぎった。 そして―― 「・・・の・・・・・・」 「・・・何ダ?」 「・・・・・・この・・・・・・」 プッツンした。 「このバカ蛇ぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」 そう叫ぶが速いが杖を振り上げ、一切の迷い無くホワイトスネイクに向けて振り下ろすッ! ドゴォォォォォン! 「ハグッ!」 至近距離でのルイズの失敗魔法の爆発が、ホワイトスネイクを吹っ飛ばすッ! ルイズ自身も今の爆発で後ろに吹っ飛ばされたが、すぐに起き上がってホワイトスネイクの方へ走る。 「そこをおおおおおお!! 動くなあああああああああ!!」 「何ダトォーーーーーーーーーーーッ!?」 突然ブチ切れた主人の暴挙に激しく混乱しながらホワイトスネイクが悲鳴を上げる。 そしてッ! メメタァッ!! 「ブゲアッ!!」 ルイズの100点満点の飛び蹴りがホワイトスネイクの顔面に炸裂したッ! さらにその蹴りの勢いでホワイトスネイクは3回半ほど後ろ回りをした挙句、校舎の外壁にごつんと後頭部を打ち付けた。 「グオォォッ・・・」 激痛でしゃがみこむホワイトスネイク。 ラングラーとの激戦、さらには限界状態での幻覚の使用。 それら能力と体力の酷使とご主人様の乱行とでホワイトスネイクはヘトヘトに弱りきっていた だがそんな彼に対しても、桃色髪の阿修羅は容赦しなかった。 当然モンモランシーもその光景を見ていたが、ルイズのあまりの凄まじさに何も言えなかった。 阿修羅――もといルイズは、そんな満身創痍を軽く通り越した状態のホワイトスネイクにおもむろに近づくと―― ドグシャアッ! 「ア・・・足ノ・・・小指・・・ヲ!」 口をぱくぱくさせながらホワイトスネイクが頭から崩れ落ちた。 足の小指を全力で、しかも革靴履いた足のかかとで踏みつけられたのだ。 痛いとかどうとかのレベルを超越している。 「この・・・この大バカッ!」 地面に突っ伏して呻いているホワイトスネイクにルイズが罵声を浴びせる。 「そもそも何なのよあんたは! サモン・サーヴァントで出てきてからご主人様差し置いて好き放題じゃないの! 決闘じゃギーシュを殺しかけるし! 自分がスタンドだからとか何とか言って訳分かんないこと言うし! それに、それに自分から死ぬなんて言うし!! あの不届き者と戦ってる時、だって、凄く心配してたのに! わたしがバカみたいじゃないの!! わたしが、わたしがどんだけ、あんたの事を心配したのか分かってるの!?」 ホワイトスネイクは倒れたままの状態でルイズの言葉を聞く。 ホワイトスネイクの今の体勢からではルイズの顔は見えなかったが、ちゃんと分かった。 言葉が途中から切れ切れになり、声が涙混じりになったのも、ホワイトスネイクには分かった。 そしてそれらの言葉の中の一つの単語が、ホワイトスネイクの胸中に響いた。 心配。 スタンド本体の力そのものであるスタンドたるホワイトスネイクにとって、それは全く縁の無い言葉だった。 とはいえ、言葉の意味を知らないわけではない。 しかし、その言葉が自分に対して矢印を向けていると言う事実に、ホワイトスネイクは驚いていた。 「マスター」 「・・・なによ」 ぐすっと鼻水をすすってルイズが答える。 「マスターハ・・・私ヲ心配シタノカ?」 そうホワイトスネイクが言うや否や―― ドグシャアッ!! 「フベッ!」 ホワイトスネイクの無防備な後頭部をルイズが容赦なく踏みつけた。 「当たり前じゃないのこのバカ蛇!! さっきから! さっきから何回もそう言ってるじゃないの!!」 後頭部の痛みを痛烈に感じ、そしてルイズの言葉を聞きながら、ホワイトスネイクは思った。 何てこった、と。 ここでは自分はスタンドとしては扱われないらしい。 自分が全存在を懸けて返済しようとした命令無視のツケの領収書を、この小娘はあっさりと突き返した。 さも当然、と言わんばかりに。 しかもそればかりじゃあない。 自分の力そのものであるスタンド――本体とまさしく一心同体であるものとは、まるで違う存在であるかのように、 あたかも他人に対するかのように心配などしてきたのだ。 自分をスタンドとして扱う気など、毛頭無いらしい。 今までの20年で積んで来たスタンドとしての立ち振る舞いの、その大半が一瞬で無用の長物になったように思えた。 何てこった。 こんなバカな話があるものか。 せっかく本体とのダメージ共有も無い分、よりスタンドらしく振舞えるものと思っていたのに。 何てこった。 これでは―― ――これでは、今はまだ死ねないではないか。 ホワイトスネイクはおもむろに起き上がった。 そして、ルイズと向き合う。 自分を一方的にボコボコにしたご主人様は、目に涙を溜めていた。 それを見て、改めてホワイトスネイクは思う。 やっぱり、まだ自分は死ねない。 こんな前途多難なスタンド本体――もとい、ご主人様を守ることなど、自分以外では難しすぎる。 他の者には到底任せられない。 そして、口を開く。 「・・・トリアエズ、謝罪ハシテオク」 「・・・とりあえず、って何よ」 尖った口調でルイズが返す。 「言イ訳ハ趣味ジャアナイガ、謝ルヨリ先ニスルコトガアルノダ」 「・・・何よ」 「コッチノ世界ニ、対応スルコトダ」 「・・・は?」 ホワイトスネイクの言ったことの意味が分からず、聞き返すルイズ。 「私ハコレデモ20年生キテイルガ、ソノ20年分ノ経験デハコノ世界ニハ到底対応デキナイ。 ツマリ・・・コッチノ世界ニ合ワセタ立チ振ル舞イヲ早急ニスル必要ガアル」 「だからどういうことよ!」 「ソウダナ、マズハ自分ニ自分デ決着ヲツケル・・・トイウノヲ撤回スルカ」 「・・・・・・本当に?」 疑いの強い目つきでルイズがホワイトスネイクを睨む。 「・・・本当ダ」 それを真っ直ぐに見返して、ホワイトスネイクが返す。 「本当に本当ね?」 「・・・本当ニ、本当ダ」 「だったら3つ約束して」 「何故ダ?」 「あんたがウソ言って無いんだったら、今からわたしが3つ言うことに約束して。いいわね?」 「・・・マアイイガ、何ヲダ?」 怪訝な顔をして聞くホワイトスネイクに、ルイズは真剣な顔で答える。 「1つ! わたしの言う事は最大限聞くこと! 2つ! わたしの身を守るのは、ほんとうにどうしようもない時だけ! 3つ! ・・・」 「・・・3ツ目ハ何ダ?」 「・・・わたしのことはルイズ、って呼びなさい」 「・・・マスター、ジャダメナノカ?」 「ダメ」 「何故ダ?」 「なんでもいいから! わたしにはルイズって立派な名前があるの! だからあんたもそれで呼びなさいってことよ!」 「マア・・・ソウイウコトニシテオクカ」 「何よその言い方! 文句あんの?」 「イヤ無イ。無イカラ、無イカラ私ヲ踏ンヅケヨウトスルンジャアナイッ!」 「いーや、踏んづけるわ。何だかよく分かんないけどまた腹立ってきたもの。覚悟しなさい」 「タカガ一週間ポッチノコトダローガッ! 私ハ体力的ニソロソロ危ウインダ! コレ以上ダメージハ受ケレンッ! ダカラヤメロト言ッテ・・・」 メメタァッ! 「ギャアァッ!」 結局ホワイトスネイクは踏まれた。 さっきと同じ足の小指を、さっきよりも強く。 そして、恐るべきジャンピン・ジャック・フラッシュと死闘を演じた強力なスタンドには不似合いな、情け無い悲鳴を上げたのであった。 しかし、この悲鳴・・・ひょっとしたら、産声なのかもしれない。 ルイズとホワイトスネイクの、「スタンド本体」と「スタンド」の関係ならぬ、「ご主人様」と「使い魔」の関係の。 ギーシュ:駆けつけた教師たちによって医務室に運ばれるが、 ケガ一つして無い上にすぐに目を覚ましたので自室へ戻った。 モンモランシー:ギーシュに付き添って医務室へ。 やはり何の問題もなかったギーシュにちょっぴり涙ぐみながら自室に戻る。 キュルケ:重傷。駆けつけた教師達によって医務室に運ばれる。 タバサ:重傷。駆けつけた教師達によって医務室に運ばれる。 オールド・オスマン:ルイズの部屋にラング・ラングラーが侵入した事件、そしてフーケ事件の処理で突如多忙になる。 こんな時に限ってミス・ロングビルがいないことを恨めしく思った。 ミス・ロングビル:現在地不明。魔法学院にはいないようだ。 ルイズ:軽症。医務室で水魔法の治療を受けてから自室に戻った。 ホワイトスネイク:重傷。発現状態を保つのもキツくなったので、ルイズの中に戻った。 ・ ・ ・ そして・・・ (ソーイエバ、ラングラーカラ記憶ト『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』ノスタンドヲ抜イテオイタノヲ ルイズニ言ッテイナイ気ガスルガ・・・マア、イイカ) 何日後か、何週間後かは分からないが、ルイズから一発蹴りを貰うことが決定したホワイトスネイクであった。 ラング・ラングラー:死亡。スタンドと記憶はホワイトスネイクの手に。 To Be Continued...
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「どうぞごゆっくり…」 ミス・ロングビルこと土のフーケ、彼女が目の前に出された料理を見る。 特に変わったようには見えないが、これがここ最近、学園でも噂の魔法の料理なのだ! ゼロのルイズ。 落ちこぼれと評判の生徒がサモン・サーヴァントで平民を呼び出した。 これだけならただの笑い話である。 そして彼がコックとわかった時、これもただのコックならさらに良い笑い話になっただろう。 だがしかし!彼はただのコックではなかった! なんと彼の料理を食べた者は健康になり、その味は天上の美味とまで称されたのである! そして、長い長い予約待ちのすえ、ついに噂の料理を味わう時がきたのである! (さ~て、噂は何処まで本当なのかしら?) 料理を食べた彼女は己の身に起こったことにただただ驚愕した! そしてその凄まじい効果に! 長年悩まされた便秘が治り、最後のデザートの美肌効果を目の当たりにしたとき 彼女は盗賊としての仕事は休業し、この学園にとどまる事を決心したのだ! 「貴方は、貴方は本当に素晴らしい料理人です、トニオさん!」 「喜んでもらえて嬉しいです」 ゼロの料理人 完
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「シエスタさんが変態貴族のモット伯の所へ奉公することになった。」 「・・・で?」 「助けに行ってくるので今日は休みます。」 「はぁ!?何いってんの!?使い魔に休息なんて無いわよ!!」 「うるせぇ!!労働基準法違反じゃあないか!!」 「だいたい助けるって何するつもりよ!!」 「とにかく今日中には帰ってくるんで!じゃ!」 「あ、こら!待ちなさい!!」 新ゼロの変態 間奏曲(インタールード) さて、こういう場合彼ならどういう行動を取るだろうか? モット伯の所へ殴り込む?彼の性格上、これはないだろう。 しかもモット伯は多少は名の知れたメイジである。 ギーシュなんかとは格が違う。 やはり、口先八丁で丸め込むつもりだろう。こっそり忍び込んで連れ出すつもりかも知れない。 いずれにしろ・・・あまりいい結果は想像できない。 下手したら逮捕される危険性だってある。 そんなことを考えて、ルイズは深いため息をついた。 しかし、当の本人は夕方、シエスタを連れて帰ってきた。 「・・・あんた、何したの?」 「何って・・・シエスタさんを返してもらうようお願いしただけさぁん♪」 「・・・やけに機嫌がいいわね。じゃあ、仕事いつもより多くやっても大丈夫ね。」 「おいおい、そいつはひどいな!HAHAHAHA!」 ルイズは、ノリノリで掃除をするメローネを見て気分が悪くなった。 ルイズは知らない。 メローネがこう呟いていたことを。 「くっくぅ~ん。新しいカモ見つけちゃったぜ。しかも貴族様だぜ。くっくぅ~ん。」
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ルイズが起こした爆煙が晴れると……そこには一本の剣が突き立っていた 「見ろよ! 『ゼロ』のルイズは剣を喚び出したぞ!」 「凄いな……負の意味で」 「いや、インテリジェンスソードの可能性も…」 周囲からの嘲笑を右から左へ聞き流し、剣を手にとってみる ルイズの頭の中に、誰かが語りかけてくる ──わたしの名はアヌビス…おまえはわたしの本体になるのだ…… (あんた…インテリジェンスソード……?) ──おまえは達人になった…誰よりも強い剣の達人だ…… ──私を使って殺すのだ…… ピシィィィン 「チクショオオオオ! くらえギーシュ! 必殺エクスプロージョン・スラッシュ!」 「さあ来いヴァリエール! 僕は実はモンモランシー一筋だぞオオ!」 ザン! 「グアアアア! こ、このトリステインの種馬と呼ばれるギーシュ・ド・グラモンが…『ゼロ』のルイズに… バ…バカなアアアアアア」 「ギーシュがやられた…」 「フフ…所詮ギーシュはドットクラス… 『ゼロ』のルイズに負けるとはメイジの面汚しね…」 「くらええええ!」 ズサ 「グアアアアアアア」 「やった…ツェルプストーとついでにタバサを倒したわ… そしてこの間学院に侵入した泥棒・『土くれ』のフーケを倒せば、もうあたしをバカにする奴はいなくなる!」 「よく来たわねミス・ヴァリエール…待っていたわ…」 「オスマン学院長の秘書のミス・ロングビルが『土くれ』のフーケだったの…! それにこの魔力は…トライアングルクラス…!」 「ミス・ヴァリエール…戦う前に一つ言っておくわ。私が盗んだ『破壊の杖』だけど、私には使い方が分からなかったの」 「な、何ですって!?」 「だから学院の宝物庫に戻しておいたわ。あとは私を倒すだけね、フフ…」 ゴゴゴゴ… 「上等よ…あたしも一つ言っておくことがあるわ あたしの魔法が失敗して爆発ばかりなのは『虚無』の属性に関係があるような気がしていたけど、別にそんなことはなかったわ!」 「あらそう」 「ウオオオいくぞオオオ!」 「来なさい小娘!」 ルイズの魔法が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!
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ギーシュの奇妙な決闘 第二話 『決闘の顛末』 目を覚ましたら……目の前に、天井があった。 当たり前すぎて今更どうこう言う事柄ではないのだが、今まで見ていた夢の内容との落差に、ギーシュはどうしても目を白黒とさせてしまう。 反射的に、向かい合う天井をじっと見つめて観察する……少なくとも、彼自身の部屋ではないらしい。 鼻腔を刺激する薬品の匂いに、首だけを動かして辺りを見回して、初めてそこが何処で、自分がどういう状況に置かれていたかを認識した。 (医務室に、寝かせられているのか。僕は) それもそうだろうと、納得する。決闘が終わった時点で、ギーシュはかなりの重症を負っていたのだから。 医務室にいないほうが可笑しいのだ。目が冷めたら棺おけの中だった、なんていうのは笑えないジョークだ。 と、見回した拍子に、見慣れた金髪が視界の端に引っかかった。 「…………ギーシュ!」 視線を戻せば、医務室の入り口で呆然とギーシュのほうを見ていた。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは、ギーシュが医務室の住人になってからというもの、気が気でなかった。 当たり前といえば当たり前である。半ばギーシュの自業自得とはいえ、彼があの危険なゼロの使い魔と決闘をおっぱじめたのは、彼女の香水が原因のひとつなのだから。 二股をかけられたケティの方はすっぱりと諦めが付いたようだが、なんだかんだ言っても、モンモランシーはギーシュにまだまだ未練があった。 彼女自身、何故自分がここまでギーシュに引かれるのかはさっぱり分からない。 彼女の性格を考えると、二股かけた馬鹿男など、たとえ相手が公爵家でも御免こうむりたいと考えるだろう……『理由がつけられる恋なんて恋じゃない』とは、何処の恋愛小説の台詞だったか。 それに…… モンモランシーの脳裏に、ゼロの使い魔……あの危険な平民を倒したギーシュの相貌がよみがえる。 自分は、ギーシュが腹部を撃たれた瞬間、微動だに出来なかった。 モンモランシーのような机上で研究に明け暮れるタイプのメイジとは無縁の、余りにも剣呑な空気の飲み込まれてしまったのだ。 得体の知れないものに対する、命の危機に対する、人を殺せる男に対する、ありとあらゆる恐怖が彼女の両手足を縛り付けたのだ。 ヴェストリの広場に集まったギャラリー……彼らは、主であるルイズも含めた全員が、リンゴォの放つ異様な空気の飲み込まれてしまったのだ。 リンゴォは、そんなギャラリーたちを見て、鼻で笑う事すらしなかった。ただ、能面のような顔で辺りを見回し、言葉を紡いだのみである。 『友が倒されても武器すら取らない……か。貴様らは対応者ですらないようだな』 『対応者』 この言葉が何を意味するのか、モンモランシーには分からなかった。分からなかったが、リンゴォが自分達に対して『軽蔑』では済まされないほどの隔意を抱いた事はわかった。 『お、お前! 平民が貴族を殺して、ただで済むと思ってるのか!』 ギャラリーの仲の誰かが、リンゴォに向かって叫びをあげるが、モンモランシーはそれに賛同する気にはならなかった。 『これ』は、平民なんてカテゴリに分類されるものではない。貴族でもない。もっと、人間としての何かを超越した者だと、感じたから。 人間は、理解の出来ないもの得体の知れないものに恐怖を抱くものだ。そして、リンゴォのような思考形態を持つものは貴族にも平民にも存在しない。 それゆえに感じた違和感が、モンモランシーの認識を狂わせていた。 ギャラリーの叫びにも、リンゴォは表情一つ動かさずに、返した。 『この小僧のような輩が貴族だというのなら、何人かかってきても負ける気はしない』 ここにいたってようやく。 モンモランシーは、リンゴォがギーシュを撃ったという事実を受け入れ。 『…………うああああああああっ!!!!』 杖を振るった。 そして放たれた水の刃は寸分たがわずリンゴォの腹部を貫いた……筈だった。 『!?』 『やはり……貴様らは……』 貫いたはずなのに! 傷一つなくその場にたたずむリンゴォは、モンモランシーを睨みつけて、 『薄汚い『対応者』に過ぎないっ! 恋人が殺されてから呪文を唱えやがって! そこはオレの銃の射程の外だっ! 汚 ら わ し い ぞ っ ! 』 その後も、薄汚い発言で激昂した貴族達の魔法がリンゴォをうがつが。 『そんなのでオレを殺す事はできない!』 全てが無意味だった。 いくら攻撃してもまるで時が撒き戻ったかのように元に戻る。その場にいる全員が、攻撃の無意味を悟るのにさほど時間はかからなかった。 そんな現象を垣間見ていたからだろう。その後、リンゴォの能力……時を撒き戻すマンダムの事を聞かされたときに、奇妙なほど納得してしまったのは。 そして。 彼は、ギーシュ・ド・グラモンは立ち上がり、勝利した。 時を撒き戻せる、あの異質なゼロの使い魔に。 その時に負った腹部の傷は決して浅いものではなく、彼は医務室への直行を余儀なくされ……命は取り留めたものの、血が流れすぎたせいか、かれこれ一週間、目覚めなかった。 香水の二つ名を持つ水のメイジとはいえ、所詮は学生……彼女はギーシュのケガを癒すのに、何の寄与もすることが出来なかったのだ。 それが、戦いのきっかけになった香水の事と、リンゴォの『対応者』発現と合わせて、決して小さくない罪悪感の塊としてモンモラシーの胸の中にわだかまっている。 そんな理由から、彼女はギーシュが入院してから、花束を抱えて医務室を訪れ花瓶の花を差し替えることが日課になっていた。 治療に当たったメイジの話では、このまま一生目を覚まさない可能性もあるらしい…… 今日は香水も一緒に持ってきた。怪我が治るとかそういうのではなく、目覚めが良くなるように調合した奴だ。 (これで、目覚めてくれるといいんだけど) そんな事を考えながら、モンモランシーは医務室の扉を開けて……ギーシュの見開かれた瞳を見て、固まった。 (……!) 見開かれた瞳だけではない。ベッドの上に横たわったギーシュの首が、辺りを見回すようにして動いている。 間違いない。 目を覚ました。ギーシュが、死の淵から生還を遂げたのだ! 「ギーシュ!」 「やぁ……モンモランシー。君の美貌は相変わらずだね」 目覚めたてで本調子ではないのだろう。ギーシュは青い顔を無理やり笑顔の形にゆがめて、彼女の名を呼んだ。いつもどおりの薄っぺらなお世辞もおまけにつけて。 「ば、馬鹿ッ! 私の事より自分のことを心配しなさい!」 余りにもいつもどおりのギーシュの言葉が照れくさかったと同時に、青い顔からそれが吐き出されるのが痛々しくて、目線をそらす。 「そこなんだけどな、モンモランシー……僕は、アレから一体どうなったんだい? あいつは、リンゴォはどうした?」 「それは……あああ! 一寸待ってて! 今、先生を呼んでくるから!」 ギーシュが発した疑問を一旦放置して、モンモランシーは医務室から駆け出していく。 一刻も早く、このめでたいニュースを皆に知らせたかった。 ――ゼロのルイズが召還したのは平民じゃない、古代の悪魔だ。 こんな、荒唐無稽な噂話は、暗い歓喜と安心感をもって学院の生徒達に受け入れられ、事実として浸透していった。 メイジでもない平民に気おされ、あまつさえ手も足も出なかったという事実は、プライドの塊である貴族の子弟達には受け入れがたい事実であり、そんな事実を受け入れるぐらいなら、多少荒唐無稽でもリンゴォを悪魔だと思い込んだほうがいいというわけだ。 彼ら自身の安いプライドを守るための防衛本能が生み出した、無責任な噂だったが……誰も、その噂を正面きって否定することは出来なかった。 何せ、そのリンゴォ自身が…… 「消えた、だって!?」 「ええ」 驚愕の声を上げるギーシュに、モンモランシーは淡々と事実を告げた。 「あなたが気を失うと同時に、すぅっと消えちゃったのよ……」 死体が消える。 魔法の存在する世界でもそうそう起きるはずのない現象。それを実際に垣間見た事で、リンゴォ=悪魔という荒唐無稽な方程式が出来上がってしまったというわけだ。 「やれやれ、それで悪魔かい」 あの後。治療薬のメイジをつれて帰ってきたモンモランシーに、自分が気絶してる間の情報を聞いたのだが…… 悪魔の存在自体が否定されて久しいというのに、貴族の末端であるはずのギーシュもこの論説にはあきれ返った。 『あれ』が貴族なのか平民なのかはギーシュにも分からない。だが、ひとつだけ確実にいえることは。 ――リンゴォ・ロードアゲインは『人間』だった。 そういう、奇妙な実感だけがギーシュの胸に残っていた。 「悪魔かどうかはともかく、ゼロのルイズがとてつもない存在を呼び出したのは確かだって言うんで、今学園はてんやわんやよ」 「ミス・ヴァリエールが?」 「ええ」 メイジの実力は使い魔で決まる。コレは、使い古されすぎて誰が言い出したかも分からない古い標語であり、事実でもある。 確かに、あの男……リンゴォ・ロードアゲインの主はルイズであり、先の標語に乗っ取って判断するのなら、ルイズのメイジとしての実力がずば抜けたものであるという事になるのだろうが。 「使い魔がすぐに死んじゃったし、ルイズの監督不行き届きって事で、普通なら退学になる所よ……けれど、今回は使いまがアレだし、コレがルイズの実力なら、ひょっとしたらひょっとするかもって、使い魔の再召喚が行われたの。 けど」 「けどって……まさか、また」 はっとなるギーシュに、モンモランシーはコクリと頷いて。 「そ。『また』平民の使い魔を呼び出したのよ、あの子……今度も、変な能力持ってるみたいで」 「ま、まさか時間を止めるとかかい!?」 「ううん。本人もよくわかってないみたいよ」 自分の脳裏に閃いたえげつない能力をそのまま口に出すギーシュ。モンモラシーの返答は先ほどとは真逆であり、首を左右に振った。 「あなたと前の使い魔の決闘みたいなことが、今回の使い魔でも起きたのよ。メイジと平民の決闘って形でね」 モンモランシーは語らなかったが、リンゴォの存在が強大な悪魔という形でメイジたちの間で認識される過程で、それを打ち倒したギーシュの存在も、比例して大きな虚像を映し出していったのだ。 すなわち、悪魔殺しの将来有望なメイジとして、ギーシュ・ド・グラモンの名は学園中に広まったのである。 無論のこと、コレはリンゴォの存在が誤認された恩恵を受けた虚像であり、実状を伴うものではなかった。 今回新しい使い魔に挑んだメイジは、そんなギーシュの英雄的扱いの尻馬に乗ろうとした愚か者であった。 そして結果は…… 「それで、その使い魔に挑んだメイジはどうなったんだい? と、いうか……一体誰がミス・ヴァリエールの使い魔に決闘を?」 「……『黒土』のボーンナムよ」 「……あー」 モンモランシーが口にした名前に、ギーシュはすぐさま、使い魔が無事でない事を確信した。勝敗はどーあれ、ただですむ道理がない。 『黒土』のボーンナム。メイジとしてのレベルはギーシュと同ランクだが、比較的友人の多いギーシュと違い、彼には全く友人がいなかった。 そこまで人格的に問題があるわけではないというのに。何故か? 簡単な話だ。彼はどんなに横暴な貴族でも眉をひそめてしまうほどの、徹底したサディストなのである。メイドを殴る蹴るなど日常茶飯事。 ある時などは、粗相を働いたメイドに頭から煮えたぎった油をぶっ掛けて、のた打ち回る姿をげらげら笑いながら眺めていたほどだ。 彼の暴力に晒された平民達を、オールド・オスマンは丁重に治療し、暇を出して田舎に帰らせたが……今日に至るまで誰一人として、学院に戻ってきたことはない。 いかに平民相手の所業とはいえ、周りの貴族はその行いに大いに引き、彼は学園内で孤立した。その寂しさをメイドで紛らわせようとするものだから……最悪の循環である。 メイド達の貴族に対する感情を、恐怖一色に染め上げている元凶であった。 かく言うギーシュ自身も、平民とはいえ女性を傷つけて悦ぶようなボーンナムに、軽蔑と嘲笑の混じった濃色の嫌悪感を抱いていた。 「オールド・オスマンに厳重注意を受けておとなしくなったと聞いたけれど……」 「今日、早速やらかしたのよ。あなたも絡んだあのシエスタって娘の手に、ナイフを付きたてて、その上から靴で踏みにじってグリグリ」 「それはまた……それを、ミスヴァリエールの使い魔がかばったというわけか」 「そ。あなたと全く同じねギーシュ」 「うぐっ」 ジト目でにらまれ、言葉に詰まる。 まあ、確かに……ギーシュがリンゴォに挑んだ理由も、『メイドのせいで二股がばれて、逆切れで八つ当たりしようとした』というとてつもなく情けないものだったから、言い返せるはずなどありはしない。 ……ギーシュの名誉のために言っておくと、彼はあの時メイドを傷つけようとする意思は全くなかった。 多少脅しつけてやろうとしただけで、本当に傷つけようなどとは、全く思っていなかったのである。 実際には、メイドに難癖つけたボーンナムを使い魔がかばい、それを挑発するために行った凶行なのだが。 まあ、そんな事はどうでもよろしい。 件のボーンナムは、黒土の二つ名が示すとおり、土のドットメイジだ。扱う魔法の性質は、ギーシュとよく似ているだろう。 扱う杖はバラの造花だし、ギーシュのワルキューレとよく似た土のゴーレムを5体まで同時に制御できる。 ボーンナム自身の性癖を反映し相手を殺そうとせず、なぶり殺しにするような陰険な戦法を使う。 余談だが、ボーンナムがバラの造花を杖にするのは、単に『茨が痛そうだから』にすぎない。 メイジとしては下から数えたほうが早いのだろうが、平民からすれば中々に手ごわい相手だというべきだろう。 しかも、戦い方からして、相手の平民は無傷では済むまい。 「それで、勝ったのはどっちなんだい?」 「そこは、あなたとは真反対。使い魔のほうが勝ったわ」 「あらら」 ギーシュはプライドを打ち崩されたであろう旧友のために、コンマ3秒だけ黙祷し、すぐさま忘れた。 ギーシュにとって嫌いな野郎の扱いなどこんなもんだ。 「使い魔の使った能力が、よく分からないっていうのは……」 「うん。使い魔のルーンが光ったと思ったら、いきなり動きが良くなったのよ。あれは、実力を隠してたとかそういうレベルじゃなかったわね。 もっと根源的な力の上昇というか」 「使い魔のルーン?」 「コルベール先生の話だと、とても珍しいルーンらしいけど……」 (そういえば、リンゴォのルーンも変わっていたな) モンモランシーの説明から、ふとあの決闘者の左手を思い浮かべるギーシュ。そもそもルーン文字ですらない文字列だった気がするが。 「後は、剣でボーンナムをざっくり」 「ざっくりって……それじゃ、あいつもこの部屋にいるのかい?」 反射的に嫌な顔をして、あたりを見回すギーシュ。あんな奴と同じ病室で寝るのなんて御免だというのが、彼の正直な気持ちだった。 モンモランシーがざっくりと表現するような傷だ。医務室の厄介になっていることは確実だろう。 「あ。大丈夫よ。今回の一件で退学にさせられたから、今頃は馬車の中で唸ってるんじゃあないかしら」 「退学?」 「流石のオールド・オスマンも今回ばかりはね」 厳重注意を受けたくせに騒ぎを起こしたのだ。堪忍袋の緒が切れたのだろう。 大人数が目撃している前での凶行だったために、弁明の余地すら与えられずに即決だった。 ボーンナムの父親はごくごく全うな性癖の人間であるため、このまま地方の片隅で強制的に隠棲させられ、次男が家督を継ぐだろうというのが、大方の見解である。 「本当はあなたも勝手に決闘したってことで、謹慎なりなんなり罰則を受けるはずだったんだけど。 オールド・オスマンがケガが罰則になるからこれ以上の罰は不要だ、ってかばってくれたのよ」 まさに外道! なボーンナムの行いの前に、ギーシュの起こした問題行動がかすんでしまったというのも大きかったのだろう。 兎に角、ギーシュは今回の決闘騒ぎにおいて、一切のペナルティを受けることはなくなったのである。 「――終わりましたよ」 二人の会話を華麗に聞き流し、ギーシュの傷を診察していたメイジが、笑顔で二人に告げる。 「もう大丈夫でしょう。傷口は塞がっているし、血もあらかた戻ったようだ。激しい運動は出来ませんが、普通に授業を受けたり歩いたりするぐらいなら」 「本当ですか?」 「ええ。ただし、激しい運動や長時間の運動は、禁止ですよ?」 「はい」 (おや) 意外と聞き分けのいいギーシュの姿を見て、人のいい事で知られるメイジは目を丸くした。 こういう風にやんわりと言い聞かせても、何らかの形で逆らうのが、貴族の師弟というものだからだ。 彼は確かにメイジだが、オールド・オスマンの秘書と同じく、貴族位を剥奪された没落貴族の出であるため、そんな彼を敬うものは全くなかったりするのである。 実際同じように治療し、治療が終わり次第追い出されたボーンナムは、医師の注意を嘲笑でもって聞き流したものだ。 てっきり、ギーシュもそう応えるのかと思ったが。 (決闘が、いい方向に影響を与えましたかね) 成長する孫を眺めるような心境で、老メイジはギーシュを見やった。実際、彼にとってこの学院の生徒達など、全員が孫のような世代だ。 「さて、そうと決まったら」 「? 何よ。行くところが決まってるの?」 いきなりベッドの上に上体を起こすギーシュに、モンモランシーはとがめるような視線を向ける。 それに対して彼は、ニヒルに笑い…… 「ああ。新しい『ゼロの使い魔』に会いに行きたいんだ。案内してくれるかい? 愛しのモンモランシー」 自分の体を覆うシーツを、バッと跳ね上げた。 さて、読者の皆様。 皆様方はこう思っていませんか? 『こんなギーシュ格好良すぎるYO!』『こんなのギーシュじゃないYO!』 ええ、そんな事は筆者も分かってます。分かってますとも。 あのギーシュが、このまま格好いいまま終わるはずがないのです。 シーツを跳ね除けたギーシュの周りに、バラの花びらが舞っていた。どーせ、演出でギーシュが放ったものだろう。 それに包まれて、彼は雄雄しくベッドの上に仁王立ちしている……彼としては格好をつけたつもりなのだろう。 だが、知らないというひとつの罪が、その行動を致命的なものにしていた。 今の彼の格好は! 包 帯 の み の 全 裸 ! 彼は知らなかった。血まみれになってしまった自分の服が、治療の際に全て破棄されていることを。 彼は知らなかった。老メイジの『治療の際に一々服脱がせると腰がいたい』とゆーしょーもない理由で自分がそのままの状態で治療を受けていたことを。 シーツをバッと引き上げて。バラの中、ほぼ全裸で屹立している素肌に包帯のみの男。 極め付けに、朝立ちと呼ばれる現象がギーシュの股間を襲っており、そちらも『屹立』している。 どう見ても変態です本当にありがとうございました。 一瞬にして、ホワイトアルバムよりも早く真っ白に凍りつく医務室の風景。 しかも間の悪いことに、屹立したギーシュのものは、モンモランシーの目と鼻の先でその存在を主張していた。 モンモランシーは勇者だった。 ギーシュのかっこつけによって引き起こされた、悲劇的な光景を前に硬直していたのは一瞬。 すぐさま再起動を果たした彼女は、 「……こ、こぉんの! ド変態!!!!」 ず ご ぉ っ ! 目の前のモノに拳を叩き込んだ! 「!!?!?!!?!?!!!???」 魂も月までぶっ飛ぶこの衝撃に、ギーシュは声にもならない悲鳴を上げ。 「ば、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 あまりにおぞましい光景と、おぞましいものを殴ってしまったショックで、モンモランシーは目幅涙流しながら走り出し。 (……まず最初に、着替えさせるべきだったかな) 男の急所にきついのをぶち込まれたギーシュに同情しつつ、老医師はシーツをかけなおし。白目むいて気絶するギーシュを再び寝かせる。 目を覚ましたはずのギーシュの入院が、何ゆえ一日伸びたのか。 その理由を知っているはずの三人は、あるものは青ざめ、あるものは赤くなり、あるものは飄々として、語ろうとしなかった。
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学院の襲撃劇から一週間後。 「お入りなさい、ルイズ」 アンリエッタの声が、トリステインの王宮に響き渡る。 「失礼します、姫……女王様」 「いやね、私とあなたの仲じゃない、今までどおり姫様でいいわ」 フフ、と笑みを漏らすアンリエッタに、ルイズはぎこちない笑顔を返した。 それを見たアンリエッタは、ふとわれに返ったように話し出した。 「ルイズ。学院では災難だったようね。教員には死者も出てしまったとか」 「はい。姫様、やはりアルビオンの手勢の仕業ですか?」 「おそらくそうでしょうね。いまの段階では詳しいことまではわかっていないけど」 ルイズは唇をぎゅっとかみ締める。 「やはり、これが戦争なのですね……私はいままで戦争のことを甘く見ていたのかもしれません」 「どういうことかしら?」 「私はあの襲撃があるまで、敵を、アルビオンを憎らしく思うばかりでした。ただアルビオンをやっつけてやる、敵をやっつけてヴァリエール家のみんなを見返してやるって思ってました。でも、コルベール先生が死んでしまってからは、なんだか怖いんです。はは、可笑しいですよね。笑ってください。私のような愚かな臆病者がヴァリエール家の名前を受け継ぐ資格なんてないんだわ」 「可笑しくなんかありませんわ。ルイズ。それは生き物として正当な事です。それにあなたのことを誰が臆病者なんて笑いますか。そうですね、マザリーニ?」 女王は傍らにかしずく家臣に語りかけた。 「左様でございます。伝説に聞こえた勇者といえども、一大決戦の前には恐れを抱いたと言い伝えられております。ましてやあなたは貴族といえどもまだ乙女。そのようなお方が勇気をもてあそばれていれば、私ども男は立つ瀬がありませぬ」 「まったく、しょうがないやつだよ」と、愚痴をこぼすのは岸辺露伴にたいし、 「仕方がないだろう。ルイズはまだ16なんだ。人の死を経験するには多感すぎる」 とため息がちに返すのはブチャラティであった。 「相変わらず使い魔さんは面白い方たちですわね」 アンリエッタは微笑んだ。奇妙に権威の高くなっているアンリエッタの威厳がややなくなりほっとしたルイズは本題に入ることにした。 「ところで、私と使い魔に旅立ちの用意をさせるとのことですが、ついにアルビオンに行くのですか?」 アンリエッタは顔に陰のある表情を見せる。 「ええ、いまわがほうの艦隊がアルビオンに向かっています。その艦隊がアルビオンの艦隊にかち、ロサイスの軍港を手に入れれば私たちは出発します」 「勝てるのですか?」 「そのために新種の軍船と、アルビオン人の士官を艦隊につけましたが……正直どうなるかわかりませぬ」代わりにマザリーニが答え、窓の外を憂うように見た。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「始まりましたな」 アルビオン空軍司令官は、艦長のその言葉に、うむ、と頷いた。 ひとまずは、彼の望んでいるとおりに、常套的に戦闘が進んでいる。 アルビオンの誇る竜騎士隊。そのうちの風竜が、敵艦隊の上空に到達したのだ。 彼らの任務は、敵竜騎士と交戦し、あるいは、彼らより足の遅い火竜を護衛することである。 ことハルケギニアに関して言えば、アルビオンの風竜騎士隊に対して、互角に戦える竜騎士隊はない。 しかも、今回のトリステイン艦隊には、ごくわずかしか、竜騎士の護衛がいないのだ。 トリステインからアルビオン大陸まで到達し、そのまま戦闘できる竜騎士は存在し得ない。 そこまで竜を操る人が、疲労困憊を極めて戦闘不能になるのだ。 そのため、彼らには、戦列艦の甲板に乗り合わせた少数の竜しかないハズである。 それも、アルビオンの、熟練の竜騎士にかかっては戦力たりえないだろう。 アルビオン大陸を防衛する、守る側の利点の一つといえた。 艦長達の見据える視線の先では、彼らの望む地獄が始まっていた。 トリステイン空軍は喧騒に包まれた。 「方向右方二十度ッ! 敵竜騎士二十頭、来ます!!!」 「迎撃ヨーゥイ!!」 「火竜、こちらに向かって接近!」「五頭、近いッ!」 「帆を守れ!」 「速力を落とすな!」 「ヘッジホッグ用意!」 最後の怒号とともに、船の甲板に多数の投石器が甲板に並べられた。 そこに搭載されるのは、火縄で数珠のように連なったちいさな砲弾たち。 「照準、上に4コマ、右に6コマ修正ッ!」 「一番右のやつだ! 狙えッ!」 平民の士官により、手慣れた手つきで操作する自由アルビオン軍の兵。 その砲弾はディテクトマジックの応用魔法がかかっており、 竜騎士のような、魔力を持つ生物に接近すると発火する仕組みになっていた。 「射ェーッ!」 狂気の花火がはなたれた。 多くがむなしく虚空へと消え去っていく中。 わずかにだが本懐を遂げる砲弾たちがあった。 火につつまれ、堕ちてゆく竜がある。 だが、それ以外の火竜は、弾幕を無視した。 怒涛のごとく、艦船に突撃を続行する。 自身が火達磨の状態で突っ込む竜騎士もある。 その火の塊は、一隻の小型艦艇と衝突した。 「『ハーマイオニー』大破ッ! 炎上!」 「高度が低下してゆきます!」 ―― ボーウッドは、その戦闘風景を、自分の竜母艦『ヴュセンタール』の指揮所にて、艦長として眺めていた。 誰が見ても、戦端が開かれたのはわかっている。 だが、そのなか、副長はあえて報告した。 「艦長、戦闘が開始されたようです」 ここからでは、『ハーマイオニー』の高度の低下が、これ以上の被害を受けないための措置なのか、損傷のための墜落なのかはわからない。 このフネ、『ヴュセンタール』は、それほどまでに戦場空域から離れていた。 「うむ。わかった」 副長の、報告の形をとった問いかけに対し、艦長のボーウッドは、彼の期待したような交戦命令は発しなかった。 副長は自分の上司に、とてつもなく深刻な疑問を抱いた。 このアルビオン人は信用できるのだろうか? 仮に信用できたとして、はたして有能なのか? 「副長」 「ハッ」副長は敬礼を返す。彼は思った。 隷下の竜騎士隊たちにたいし、いよいよ出撃命令を下すのだろうか? この艦長、ボーウッドは、なぜか竜を甲板にも出さず、格納室へ待機させたままだ。 副長の見るところ、すでに友軍の竜騎士、戦列艦付きの竜騎士隊は圧倒されつつある。 今のままでは、敵の竜に戦場の制空権を奪われかねない。 われらの艦長はあくまでも冷静のようだが。と副長は内心考えていた。 臆病風にでも吹かれたか? このアルビオン人は? 副長のその思考を、当の艦長が邪魔した。 「我々は、この『竜母艦』が戦闘艦であることを熟知している。だが、敵のアルビオン艦隊からしてみれば、どのような艦種に見えるだろうか?」 副長は、自分の直接の指揮官に対し、最低限度の礼は守った。 「……おそらく、彼らは本艦を輸送艦と思うでしょうな」 「そうだな。本官もそう思う」 だれがいったか、 「……艦長、命令を」 この言葉は、艦長以外の、指揮所に居合わせたトリステイン軍人の総意でもある。 ボーウッドは、戦場を眺めながらゆっくり口を開いた。 「本艦を輸送船とみなしているのであれば、交戦中は、我々を脅威とはみなすまい」 副長は、艦長の言うことがいまひとつわからないでいた。 この間艦長は、アカデミーで学生を相手に講義するプロフェッサーのような態度で部下に接している。 「戦術教義上、艦隊から離れている輸送艦を攻撃するときは、余力が発生したとき。勝負が決したときである。 すなわち、彼らが勝ったと思っているときだ。そのときまで、彼らはこの『輸送艦』を略奪すまい」 「……どういうことでしょうか?」 「だから、その決定的な局面まで、本艦は攻撃を受けずにやり過ごすことができる」 副長は険のかかった顔を前面に押し出し、はっきりと詰問した。 「艦長の真意をお聞かせ願いたい」 ボーウッドはそれに答えず、たった一つ、命令を発した。 「竜騎士隊たちに令達。別命あるまで待機」 副官は開いた口がふさがらない思いだった。 ボーウッド、いや、この男は戦わないつもりなのか? ―― 小さな敵の船がたくさんこちらにやってくる! レドウタブール号の甲板に居合わせた、マリコルヌがそう思っていると、彼の目の前に鉄の塊が突き刺さった。 なに、これ…… あ、敵の放ったバリスタの矢か…… 彼がそこまで考えたとき、マリコルヌは頬を思い切り叩かれた。 見れば、のこぎりを持った平民が自分を怒鳴りつけている。 「バカ野郎! メイジならさっさと魔法を唱えて敵を止めろ!」 そういって、彼は甲板に突き刺さったバリスタの先を指差した。 そのバリスタの矢尻には、巨大な鉄の鎖がついており、その先は敵の船につながっている。 そして、その鎖をわたって、敵のメイジたちがやってきている!!! マリコルヌは恐慌のうちに、わけもわからず魔法を唱え、放った。 偶然か、必然か? マリコルヌの放った魔法は、一人の若いメイジをかすった。 結果、彼を鎖から引き離した。 その敵メイジは中空に静止する。 その男は『フライ』を唱えているため、彼に、魔法による攻撃戦力はなくなった。 とにかく、マリコルヌは一人の敵メイジの無力化に成功した。 だが、事態は刻一刻と変化を遂げている。 マリコルヌは、自分の戦果を確認する暇も与えられないまま、新たな目標に向かって攻撃魔法を唱え続けた。 その周りで、船員たちの怒号が鳴り響く。 「急いで鎖を切断しろ!」 そうどなる水兵は鉈を持っている。 「接舷されたら降下猟兵が降って来るぞ!」 斧を持った男がそれに応じる。 「こっちにも手斧を頼む! 至急だ!」 どこかから野太い怒号が聞こえる。 「くそっ! どんどん引き寄せられているぞ!」 「弓兵、矢を増やせ!」 「近接戦闘用意! 来るぞ! 槍衾だ!」 この後、マリコルヌに理解できた言葉はなくなった。 彼は、自分が今、何をしているかもわからなくなったからだ。 かろうじて自分が小便を漏らしているのがわかる。 だが。 自分がどの魔法を唱えているのか。 隣にいる人の気配は、敵なのか。それとも味方なのか。 それすらもわからないまま、マリコルヌは杖を振り続ける。 ―― ボーウッドの、先ほどの副長との会話から半刻後。 「君、トリステインでも、竜騎士たちは狐狩りをするのかね? その、竜に乗って」 「ええ、行いますが。それが何か?」 彼にそういわれた若い竜騎士、ルネ・フォンクは怒気を隠さずに答えた。 竜母艦の指揮所に呼ばれ、すわ出撃か、と思ったらこれだ。 何をのんきな。 一体この男は何を考えているんだ? やっぱりみんなの言っていたとおり、このアルビオン人は裏切っていたのか? 「それでは、君ならばわかるだろう。戦と狩は根本的な所で同一なのだ」 それはそうだろう、とルネは思う。 犬に周りを囲ませて退路をふさぎ、自分たち竜騎士と犬で目標を討つ。 現に今。 犬をアルビオン艦艇に例えれば。 友軍の艦隊が、狐のように包囲されてしまっているのだ。 しかも、戦列艦による艦砲射撃のおまけつきだ。 初陣の自分でも、トリステイン艦隊が負け始めていることがわかる。 そのような状態で、このフネは戦闘に加わることも無く、自分の高度を上げ続けている。 「そんなことっ、士官学校を出たものならば常識のことです」 ルネは、己の持つ最大限の自制心を発揮した。 「ならば、なおのこと良い。ふむ、トリステインの士官学校は、聞いていたほどには堕ちていない様だな」 なかばたたきつけるように返答したルネに対し、ボーウッドはあくまでも鷹揚に返す。 このアルビオン人を戦死させようか? 『流れ弾』にあたった、『不幸な戦死』をあたえるべきだろうか? ルネがそこまで思いつめ始めたとき、不意に、当の士官から質問された。 「君、狐狩りの最中に、竜騎士が守るべき三大規範は何だ?」 あまりにも戦場とは異なる質問。 その思わぬ質問に、唖然としながらも、ルネは返答することができた。 「まず、獲物に反撃されないように注意すること。次に、獲物に狙いをつけた人と、その獲物の間に自分の身をさらさないこと。最後に、獲物を狙って急降下している、他の竜の進路を邪魔しないこと。以上のみっつです」 ボーウッドはうなずいた。 「そのとおりだ。ならば、諸君ら竜騎士隊に対し、今から命令を発す。 アルビオンの狩人たちに対し、その規範を破りたまえ。可及的速やかにだ」 ルネたち竜騎士は、一瞬の遅れの後、敬礼を返す。 ボーウッドは簡素な敬礼を返しながらも、簡潔に続けた。 「だが、まずは生き残ることを考えろ。彼らは、君たちよりもよほど竜の扱いに長けている。敵にとっては、動いて、生き続けている的が多いほど、獲物に対する狙いがつけにくくなるのだ。さあ、行きたまえ。出撃だ」 「「ハッ!!!」」 ルネ・フォンクと仲間たちは、はじかれたように、自分の竜のもとへと駆け出した。 彼ら自身が狩人となる為に。 または、獲物と成り果てる為に。 彼らまだは知らない。 同じ船に乗るマンティコア隊とグリフォン隊には、別の命令が発せられたことを。 ―― アルビオン竜騎士団、風竜第三連隊、通称銀衛連隊。 その隊長、サ-・アンソニーは己の竜を操りながら、眼下で繰り広げられている戦況を冷静に俯瞰した。 そこでは、敵である戦列艦隊群を小型のスループ船が包囲している。 味方のスループ船が二手に別れた、二つの縦列陣。 一方は敵進路の右方に展開し、もうひとつは後方へと回り込んでいる。 彼らは、遠方からの援護射撃の元、大型船の戦列艦と互角以上に戦っていた。 味方の小型艦は、勇敢にも戦列艦に接舷し、突っ込み、乗員を敵甲板に乗り移らせている。 まるで海賊だな。 彼はそう思ったが、実際は海賊以上であった。 小型艦があまりにも接近したため、敵戦列艦の砲撃では、彼ら自身も誘爆をおこしかねい状況だ。 また、敵艦のうちいくつかは、高度をとることを試みている。 だが。 「クオックス小隊、降下開始!」 アンソニーの近くで、輪乗りをしていた火竜の乗り手が叫ぶ。 その掛け声とともに。 合計十五頭の火竜が、高度を上げ始めた敵艦にたいし急降下を開始した。 一方で、すでにそのような急降下を終え、敵の帆を焼き払った竜騎士隊がいた。 彼らは高度をあげ、元の攻撃開始座標まで上昇するつもりだ。 今のところ、我々は勝利しつつある。 アンソニーには、戦場で、そのように考える余裕があった。 その理由は、彼がベテランの竜遣いであったからだ。 だが、一番の理由は、彼ら風竜の主敵である、敵竜騎士隊を全滅させてしまったからである。 現在、高度を上げつつある火竜部隊。 たしか、スワローテイル小隊だったな。 アンソニーがそう思ったとき、彼らの統制の取れた隊形が。 急にバラバラに乱れていく光景を目の当たりにした。 「各隊、散開!」 彼は無意識のうちにそう叫んだ。 だが。 その命令は、一寸程遅かった。 次の瞬間、猛烈な魔法の奔流が、はるか上空から彼らに襲い掛かった。 今の一撃で、アルビオンの竜騎士の半数が失われた。 歴戦の戦士であるアンソニーの脳裏に、そのような電算結果がはじき出された。 「糞ッ!!!」 彼自身はそういいつつ、自分の風竜に回避のため旋回行動をとらせた。 何よりも痛いのは、この混乱のせいで、まともな指揮が取れなくなったことだ。 彼がそう考えているうちに、間抜けな味方から、次々に打ち落とされていく。 ―― ルネ・フォンクとその仲間達は、敵の誰にも気づかれること無く、戦場の上空に到達することができた。 彼らの真下には、負け始めた味方。 ルネと味方との間に、うようよといる敵竜騎士。 ルネ達は太陽を背にし、急降下を始めた。 無論、魔法を唱えながら。 彼らが急降下しながら放った最初の一撃が、敵にとって一番の致命弾であった。 ルネらの存在は直前まで敵に知られることが無かった。 そのため、ルネたちは思い思いに、自分が得意とした大魔法を唱えることができた。 彼らの大規模な効力魔法射撃により、敵火竜の殲滅に成功する。 一部風竜の撃墜にも成功した。 だが、さすがはアルビオン竜騎士団。 この状態で、かなりの風竜騎士が奇襲の回避に成功している。 彼らは、竜の手綱を翻し、すかさず反撃に移る。 高度の差の不利にもかかわらず。 彼らはトリステイン竜騎士達の後ろにぴったりと張り付いた。 トリステインとアルビオンの竜騎士の技量の差である。 だが、このとき。 ルネたちトリステイン竜騎士は、ボーウッドから教えられた新戦法を実行していた。 アルビオンの狩人が、トリステインの竜の後ろに付き続ける。 しかし、トリステインの戦士は戦士らしからぬ態度を見せた。 彼らは、ひたすら逃げに打って出たのだ。 しかも、高度をとりながら。 高度をとる、ということは、減速することと同義である。 たちまち追いついたアルビオン竜騎士が、杖を振り下ろす。 否、振り下ろさんとするとき。 まさに、そのとき。 太陽のぎらついた輝きの中から、新たなトリステインの竜騎士隊がその戦渦に突入した。 今までいた敵に狙いをつけていたアルビオン竜騎士は、その流れにまったく付いていけない。 アルビオンの狩人に、攻撃を食らって墜落する者が続出した。 攻撃を食らわずに済んだ狩人たちも。 新たな騎士と今までの騎士。 どちらに狙いをつけるか決めかねた。 また、決めた人間も。 狙いをつけたとたんに、そのトリステインの竜は逃げ出す。 それを追いかけるうちに、別の戦士に攻撃される。 アルビオンの竜騎士達は。 こうして、戦場の狩人たる資格を失っていった。 ―― 「いったいどうしたのだ、これは!」 アルビオン軍の司令官はそう叫んだ。 乗り合わせた、レコンキスタの政治将校とともに。 彼は驚愕した。アルビオンの竜騎士は、世界最強ではなかったか? だが、その疑問は晴らされることは無かった。 「敵襲ゥ!!!」 その絶叫で、彼はようやく自分の乗る戦列艦が襲撃されているのを自覚した。 だが、何者によって? 政治将校は、その襲撃の報告を虚言と信じた。いや、自分を騙した。 トリステイン艦隊の、戦列艦すべてはかなり遠くにある。 トリステインの竜騎士は、アルビオンの竜騎士に対して(信じがたいことに)互角以上に戦っている。 そんななか、戦列艦の砲射撃にかまわず攻撃できる敵戦力があるとはとても考えられない。 そのように考えている彼の指揮所に、一匹のマンティコアが侵入してきた。 これは夢だ。 「敵のマンティコアなど、ここまで飛んでこられるわけがない! ハルケギニアの大陸まで、どれだけあると思っている!!!!」 彼の、喰われるまえの最後の叫びだった。 ―― 「勝ちましたな」 そういった副長は、肝心のボーウッドが相変わらず仏頂面な事実に内心驚いていた。 護衛艦を欠いた敵戦列艦にとって、有効な攻撃手段は艦砲射撃のみである。 ボーウッドの命によって、幾十もの獣が、戦列艦の甲板員を食いちぎっていく。 彼らに、反撃するすべは無きに等しい。 敵総指揮官が乗ったと思われる戦列艦群から、敵戦艦がひとつずつ、だが、確実に堕ちて行く。 味方の艦隊も、ボーウッドが放った竜騎士隊の援護を受け、徐々に制空権を取り戻しつつある。 彼らが勝利を収めるのは時間の問題であった。 「副長、ここでこういうのもなんだがな」 ボーウッドは、副長を見もせずに話しかけていた。 「ハッ、何でしょうか」 「私は、人殺しというものが好きではないのだ」 ボーウッドに向かって、思わず敬礼を行った副長は。 この勝利をもたらした張本人に個人的な敬意を感じ始めていた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 昼。ガリア王宮にて。 ドッピオが王宮の主、ジョゼフに報告を行っていた。 「トリステインも、あの学院襲撃にあいようやく重い腰を上げたようです」 「いよいよ、アルビオンでの戦いの火蓋は切られたようだな。結構結構」 王座の主は鷹揚に笑う。その目線の先には、アルビオンのロサイス港が映見の鏡に映されていた。所々戦争の煙がたなびいている。 「いいんですか?せっかく苦労してあのクロムウェルを帝位につけたのに」 「気にするな。苦労したのは私ではない。お前だ」 「……そうですけど」 「それに資金はたっぷりとある。お前が売りさばいた麻薬の資金がな」 「ひょっとしてパッショーネの資金、全部つかっちゃったんですか?」 「いいではないかドッピオ。狗の相手よりは戦処女の相手をしたほうが万倍も色気があるというものだ。さあ、アルビオンに向かうのだ。混乱の刻印を刻みに。死者の慟哭を叫びに」 「了解しました。王様」 ドッピオは敬礼をかざし、王宮の間から退出した。 しばらくの時間のあと、ジョゼフは王の椅子から立ち上がった。 沈黙の後、王の口元からクックックと笑いがこぼれる。 「わが弟、シャルルよ。見ているか、お前の弟の悪業を。オレはここまでやっても心は痛まぬ。お前を殺したときの後悔等と比べれば今の心の痛みなど無いも同然。お前は優しいからあの世から嘆いているだろうな。今ごろ自分がガリア王になっていればと、そう思っているのではないか?今さら遅いわ。すべてはオレがお前を殺した10年前から事態は転げ始めていたのだ」ジョゼフは気にした風もなくメイドをよび、ワインをグラスに注がせた。 「わが弟よ。お前のいない世界はなんと感情を感じぬのか!このくだらない世界など……いや、あえて言うまい。シャルルよ、あの世から見ておけ。俺はこの世界で自分がどこまでやれるか試してやるつもりだ。このブリミルの世界に、どこまでオレの劣情が刻みつけられるのか。その暁には、おそらくひどく後悔するのだろうな。ああ、わくわくするぞ。どきどきするぞ。後悔と懺悔が漣のように我が身を襲うのであろうな!それを思うだけで今から果ててしまいそうだ!」ジョセフの高笑いはその後しばらく続いたのであった。
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『青銅』のギーシュ⑤ 間違いない・・!今のオレの力は!確実に上がっているッ!!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ ルイズの行動により、黄金の精神を取り戻し、復活したブチャラティ。戦いを再開する! だがその際に彼にとある変化が起きていた・・・・。 そしてその変化は、ルイズにも起こっていたッ!! 「アイツの後ろにいる『霊』はなんなの・・?アイツは・・一体・・?」 ルイズにはブチャラティの"スティッキィ・フィンガース"が見えているのか・・? ギーシュもまた驚いていたッ!! 「ブチャラティ・・・・一体何をしたんだ・・?一瞬で・・・僕のワルキューレを・・?」 その変化に一番驚いていたのは他でもないブチャラティ! 「これはジョルノの時のような感覚の暴走などでは断じてないッ!!これはまぎれもなくオレ自身に変化が起きているッ!!」 そして、体の痛みが少し引いているのに気づく!! 「足が・・・・まだ動く!!」 ギーシュに向かって走るッ!! ギーシュが動かないッ!!やはりショックは大きいか? 「・・・・・なぁーんてショックを受けると思ったかい!? そのルーンが光ったら強くなるなんてスデに想定の範囲内だッ!!」 ギーシュが造花の花弁を散らすッ!そしてワルキューレ(×7)!! 「僕はすでにこの戦いをずっと前から感じ取っていたんだ。精神が覚えていると言えばいいのかな。 そんなパワーアップくらいではこのギーシュ・ド・グラモンはうろたえないッ!!」 ワルキューレが突進するッ!!ブチャラティが構えるッ!! (オレに起こった変化・・・。まずこれだけの重傷でなお動く事が出来る・・) 2体のワルキューレの槍が捉えるッ!! ズバッ!ズバッ! 「ああ!剣で真っ二つに!」 ギャラリーも思わず息を呑むッ!! (二つ目・・・。本体のオレ自身が剣を自在に使えるようになっている・・・。) 彼は一応パッショーネで銃火器などの扱い方もスタンドの扱い方と一緒に学んでいたが、剣は素人のハズだったッ!! だが今のブチャラティはまるで何十人、何百人もの剣豪を斬り捨ててきた達人のような動きをしていたのだッ!! (そして何より三つ目・・!これはかなり大きな利点ッ!!) ブチャラティが後ろに控えていた3体のワルキューレを捉え・・! 「"スティッキィ・フィンガース"!!」 スタタァン!! まさに一瞬の出来事ッ!!その3体のワルキューレが『打撃』一発で粉々にぶち割れたッ! 「何ッ!?『打撃』だと・・!?だがさっきまでは一発では・・。」 ギーシュがそう言ってブチャラティがこっちを見ているのに気づくッ! 「落ち着け・・。まだあいつのスタンドとやらの射程距離には入ってない・・。 絶対に2メイル近づかずに『伸びる腕』に警戒すれば・・! "ワルキューレ"!今から新しく出す奴と連携して奴を・・!」 ボグシャア!! 突然の打撃ッ!ブチャラティはまだ5メイル先にいるのに!腕も伸ばしてなかった! 「ぐあああ!!」 ワルキューレごと後ろに吹っ飛んだッ!! 「そんな・・・まさか・・!」 「S・フィンガースも合わせて強化されている!!パワーは一撃で青銅を粉々に! スピードはそれを3体相手に一瞬でやってのけるほどにッ!! 射程距離に至っては5メートルに伸びているぞ!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。 一方ギーシュは不幸中の幸い!ワルキューレを寸前に出していたおかげでギリギリ決定打には繋がらなかったッ!! 「ク・・・フフ、そうこなくてはいけないな!決闘を侮辱するよりはいい展開だぞブチャラティッ!!」 ギーシュがかまえ直すッ!! 「射程距離は5メイルに伸びたんだったな!ならさらに遠距離からッ!!」 ジャンプと同時に石礫ッ!!衝撃でさらに後ろにッ!! だが着地するときッ!! ミシッ! (く・・・。やはりあまり無理は出来ない・・・。もうこっちの魔力も尽きようとしている・・・。あまり戦いを長引かせることはできない・・・。) だがそれはブチャラティも同じッ!! (一時的に動けるとはいえオレのダメージが消えたわけではない。動きすぎて自滅なんてマンガのやられ役みたいな展開だけはゴメンだ・・・。) ((お互い、次の攻撃で勝負が決まる!!)) ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがブチャラティを助けるために跪いてからまだほんの百数十秒しかたっていない・・・ 二分程しかたっていない・・・・・・。 あとその半分にも満たない時間で最終の決着はつくであろう・・・ 彼らをつつみ込む運命を変えることだけは・・・ どんな魔法でも、どんなスタンドにもできないのだ・・・ 次に動いた時!最後の勝負は始まるッ!! 「なんか使い魔の奴・・。剣持った時から強くなってないか・・?」 「ああ・・。なんかあの見えない『打撃』、今はアイツからほとばしるオーラそのものが攻撃してるように感じるんだけど・・・。」 (・・?みんなには『アイツ』が見えていないの・・?存在を感じ取っているだけ・・?) ルイズはブチャラティの後ろの存在に今なお困惑していた・・・。 (アレは・・・ブチャラティが動かしているの・・?ブチャラティ・・・ただの平民じゃない・・? 私だけがハッキリ見ているのは私がアイツの主人だから・・?) 使い魔とメイジは一心同体。使い魔はメイジの目となり、手となり、足となる存在。 その絆がルイズの感覚に変化を表したようだ・・・。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。 「『錬金』!!一体のワルキューレに青銅を集中させるッ!!」 先に動いたのはギーシュッ!! ピタッ ピタッ ピタッ 「耐久力を強化・・。そして魔力を極限まで脚部に集中させて強化ッ!!」 タンッ! ブチャラティが駆け出す!! 「いけッ!強化ワルキューレよ!!」 スタッ!!強化ワルキューレが迎え撃ったッ!! 「速いッ!!さっきまでより凄く速くなっている!!」 「さらに耐久力も上がって一撃では破壊できないッ!!」 そしてブチャラティと強化ワルキューレが接近した!! 「忘れたか・・?オレには『ジッパー』があるんだぜ・・。"スティッキィ・フィンガース"!!」 「かかったなアホがッ!!」 ギーシュが叫ぶッ!! 「ジッパー?よく覚えているさ・・。それがあれば耐久力は関係ないだろう・・。 だが逆に考えると、耐久力を上げればおまえはジッパーを使わざるを得ないだろう?」 ギーシュが造花を前におもいっきり突き出す!! 「ああっ!!まさかッ!!」 「君のジッパーは打撃と比べ、出した後にほんのわずかながら大きな隙が出来ているッ!!一瞬。だがこの一瞬を僕は待っていたんだッ!!」 ギーシュが『石礫』を唱え始めた! 「僕との間に直線上に強化ワルキューレを置き、その直線のラインを渡っていけば、 君はワルキューレを攻撃するためにそのまま直線状に走るだろう。だがそれが狙いだ! ブチャラティからみて僕がワルキューレの影、『死角』に入りジッパーを使ったために隙が出来る、この一瞬を待っていたんだッ!! この最後の石礫は発射されてからじゃあ対応できない!突進力を重視したのは彼に考える暇を与えないためだッ!」 いままでで一番高密度、超硬質に練り上げられた礫ができあがる!! 「ギーシュが優位に立ったぞッ!!」 「ギーシュが勝つのかぁ!?」 「ブチャラティさん逃げてぇーーーーーッ!!」 シエスタが叫ぶッ!! 「あ・・あ・・ブチャラティ・・・!間に合わない・・!」 ルイズが負けを確信する・・! 「勝ったッ!!こいつをくらって終われッ!!」 「なるほど・・・死角ができる一瞬をねらうつもりだったか・・・。 危なかった・・。こっちも策を練ってなければやられていた・・。」 「えっ!!?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。 意外ッ!その男は背後にッ!! 「い、い、いつから!?どうやって僕の後ろに!?」 「言っただろ?オレにはジッパーがあると・・。」 ブチャラティが地面に指差す。そこにはッ!! 「じ、地面にジッパーが・・?」 「ジッパーは何も切断だけが使い道ではない。オレのS・フィンガースのジッパーは壁や地面に貼ればそこに『中の世界』を作り出す事ができるッ!! さらに開閉はオレの意思で自在に行うことができるッ!!」 ギーシュはジッパーを目で辿るッ!ブチャラティとワルキューレのいた所から自分の背後までジッパーは伸びていたッ!! 「あ、あれかッ!あれで『ゼロのルイズ』の爆発からやり過ごしていたんだッ!! だからアイツは無傷だったんだッ!!」 キュルケも思い出すッ!! 「じゃあ最初の日、私たちの目を欺いたのもアレと言う事なの!?」 「まあ図で説明するとこういうことになる。」 ● →ワルキューレ ∥ →ジッパー縦。 = →ジッパー横 ① ギーシュ ●突撃方向―→ ←― ブチャラティ 「こうやって普通に突撃を行う。すると、」 ② ギーシュ ●→ ←ブチャラティ ↑ ↑ 『石礫』用意 こっちからはギーシュが見えない。 「こうやってワルキューレで死角を作りオレに止めをさすつもりだったんだろ? だがオレは・・・。」 ③ ===ギーシュ==============●=∥ ←ブチャラティ (中に入った。) ↑ ↑ 実は彼からも見えない。 ジッパーを貼って中に入る。。 「お前の見えない角度から地面にジッパーを貼ってその中に入る。 おまえ自身も呪文でトドメを指す事に集中して足元に気づかない。後は・・・。」 ④ ブチャラティ ===ギーシュ==============●=∥ ←―――――――開け!ジッパー! 「ジッパーの持ち手を持ちながらジッパーを開けば、お前に気づかれる事無く射程距離内に難なく入る事ができると言うワケだ。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ 「な、なぜ今までそれをもっと速く使わなかった・・?」 「実戦であろうがなんだろうが、切り札は最後のいよいよ危なくなった時に使うものだろう?」 場の空気が張り詰めるッ!! 「ブチャラティが・・・逆転した・・・!」 「ギーシュが危ないッ!!」 「逃げろギーシュ!!」 ジリ・・・・。 「無駄だ。オレのS・フィンガースのスピードと射程距離は・・・すでにお前を捉えているッ!! 逃げる事は・・・不可能だ!!」 モンモランシーが息を呑む! 「いや・・・・・。まだよ・・。」 「・・・・・・・フフフフ・・。ハハハハハハハハハ!!!!!!!! なぁ~んで僕が逃げなきゃ行けないのかなぁ!?わざわざそっちからトドメをさされに来たのにさぁ!!」 ギーシュがブチャラティに造花を向けるッ!!その先には・・・発射準備の完了した『石礫』!! 「僕の作戦が失敗しようが・・、それがどうした!?いくら僕に攻撃を当てるためとはいえ、ここまで至近距離まで近寄ればもうハズす事はない!! 最終的に・・・攻撃さえ当たればよかろうなのだぁ――――ッ!!」 「・・・・・・・・・・・。」 ブチャラティは石礫に目を据えるッ!! 「さらにッ!こうしている間に強化ワルキューレは戻って来ているんだぜッ!! 罠に嵌め返したつもりが、嵌ったのは結局君だブチャラティッ!!」 ガシャンガシャン!! 強化ワルキューレが猛スピードでこちらに向かうッ!! 「ああ!ブチャラティ!!もうダメ!降伏してッ!!」 「もうおそい!脱出不可能だッ!喰らえッ!!」 その瞬間誰もがギーシュの勝利を疑わなかったッ!! だがブチャラティはッ!! (見える・・・。見えるぞ・・・!) ズバッ!ガキンッ!! 「な・・・・え・・?」 ほんの、一瞬の出来事だった。 ワルキューレが剣で見事に切り刻まれていた。そして! 「ぐうッ・・・おりゃぁぁぁぁ!!!」 バキィィン!! 石礫を剣だけでぶっ壊したッ!! 「な・・バ、バカな・・・!こんなはずは・・!」 「・・・・ゲーム・・・・セットだ・・!!」 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 右頬、顎、左肩、胸、右膝、両脛… 至る所を殴り付け確実な勝利をもぎ取るッ!! 最後の力を振り絞った渾身のラッシュだったッ!! 「ぶっ!ぐおっ!がっ!ぐあっ!ぐえっ!」 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 ドッバァ――――ッ!! 「ブァガァーーーーーーーッ!!」 バラッ! 「アリーヴェデルチ!(さよならだ)」 ドタドタドタッ!! 「う、うわあああああああっ!ぼ、僕の体がぁーーーーーーッ!!」 「ひいいええええーーーーっ!ギーシュがバラバラにぃーーーッ!!」 誰もが悪夢をみていると錯覚したッ!!あのギーシュが!トドメを刺されたと思ったら、次の瞬間、頭!胴体!腰!右腕!右手首!左腕!左手首!右足!左足! 計9パーツのバラバラ状態に変わり果ててしまったのだ! これにはルイズも顔を青ざめさせるッ! 「ブ、ブチャラティ・・・!何も・・!何も殺さなくたって・・!!」 「安心しろ。死んじゃあいない。『今』はな。」 ブチャラティがギーシュに近づく。 「さあ、オレの勝ちだ。ここから先はお前をどうしようとオレの勝手だよな。」 「あ・・・。あ・・。僕は・・・・勝てなかったのか・・?」 ブチャラティが髪のところをニンジンを掘るように持ち上げる。 「さて、ルイズ。約束通り『晒し首』を見せてやったぜ。」 「ぼ、僕は死ぬのか!?このまま死ぬのか!?」 ルイズは口をアングリさせた。 「え・・?生きてる!?どうやって生きてるのコレ!?」 「どうだ?何か感想はあるか?」 「あ、あるわけないでしょ!この馬鹿使い魔!!無茶しすぎよ・・・!」 ルイズはもはや展開についていけなかったが、ギーシュは生きていたので安心したようだ。 そしてブチャラティがギーシュに顔を向ける。 「さてギーシュ!お前はもう死んだも同然だがまだ生きている。 だがそれもいつまでも続かないぞ・・・?そろそろ息が苦しいだろう?」 「い、息が・・・・出来ない・・!」 ギーシュの顔がどんどん赤くなるッ!酸素が足りなくなっているのだッ! 「このまま体に繋がなかったら、そうだな、あと4,5分でマジに死ぬぞ。 それがイヤならこのまま降伏し、あとルイズに対する非礼も詫びてもらおう・・。」 モンモランシーが心配そうに見ている。 「ギーシュ・・・。」 「わかった・・・。僕の負けだ・・・。 ルイズに対する僕の失言についても謝るよ・・・。」 ギーシュは俯いて言った。 「そうか・・・・・・。」 「ブチャラティ・・。もういいじゃない・・。何もここまでやる必要なんてない・・。」 ブチャラティはギーシュの胴体を見る。 「そうだな・・。軽はずみな発言についカッとなってしまったが、コイツはこのまま殺すには惜しいものを持っている・・。ここは『殺害』と言う形ではなく・・・。」 ギーシュの頭を繋ぐ。 「頭だけ繋いで『再起不能』という形にさせてもらおう・・・。残りは他の誰かに繋いでもらうんだな・・・。」 ヨロ・・・。 ルイズが肩を持つ。 「ブチャラティ!大丈夫!?」 「大丈夫・・。一人で歩ける・・。」 「早くケガを直してもらって来なさいよ!もうゆっくり休んでなさい!」 「そうだな・・・。もうオレは疲れた・・・。」 ブチャラティは学院に向かって歩き出した・・。 「バカ・・・。無茶するんだから・・・!」 「ギーシュ!大丈夫か!?」 「ギーシュ!しっかりして!!」 モンモランシー達数名がギーシュの元に駆け寄る。 「う・・ううん・・。」 「ギーシュ!大丈夫!?生きてるわよね!?」 モンモランシーが腕を繋ぎながら言う。 「モンモランシー・・・。すまなかった・・。 結局・・・僕は・・・勝つことが出来なかった・・・。」 「もうしゃべらないで・・!ケガに響くわよ・・・。」 ギーシュは空を向いて言う。 「結局・・。僕は無様なまま終わってしまった・・・。 運命を変える事は・・できなかった・・。」 モンモランシーは少し黙ってから言った。 「そうね・・。あんたは運命を変えられなかった・・。 でもこれだけはいえるわ。運命を変えようとがむしゃらになったあんたの姿は、とても輝いてた。それこそ、どの宝石にも勝るほどにね・・。」 「モンモランシー・・・。」 モンモランシーは続ける。 「あんたは確かに成し遂げる事はできなかった。でも私は見ててこう思った。 本当に大切なのは、何かを成し遂げようと行動する強い意志のほうじゃあないかって。 だから・・・。もういいじゃない・・。もう・・・。」 ギーシュのパーツは修復完了した。 「・・・フ・・。何言ってるのさ・・。いつも言ってるだろう?一番素晴らしいのは 君の、女王陛下も顔負けな神々しい美しさに決まっているじゃないか・・。」 「それだけ口が聞ければ大丈夫そうね。」 ギーシュが手をついて上体を起こす。 「しかし・・・。ブローノ・ブチャラティ・・。結果論とはいえ、結局最終的に彼によって成長のための機会を作ってもらってしまったようなものだ・・。 彼を見ていると、まるで僕を正しい道へと導いてくれるチームリーダーのように見えるよ・・。」 ギーシュは偶然か核心をついていた・・・。 「ルイズ。結局彼は・・・ブチャラティは何者なんだ・・? 彼のあの実戦慣れした動き、能力、何より彼から痛いほど感じられた『覚悟』・・・。 戦い終わってから、急に知りたくなったんだ・・。僕は何者と戦っていたのか・・。」 「・・・アイツは、」 バタッ!! 「あ!アイツ倒れちまったぞ!?」 「ブチャラティ!んもうッ!結局世話かけてッ!!」 ルイズがブチャラティのほうに向かおうとして、一度止まった。 「・・・アイツは、私の使い魔よ・・・。 それ以上でもそれ以下でもない。私が知ってるのはそれだけ。」 そう言って、ブチャラティの元に走っていった。そして思った。 「アイツが何者?そんな事、私が一番知りたいわよ・・・。」 ギーシュもふと呟いた。 「やれやれ・・・。得体の知れない男だ・・。完敗だな・・。」 ―※― ―――――我々はみな『運命』の奴隷なんだ。 形として出たものは変える事はできない・・・。 現に君はその運命によって命を落とした・・・。 誰の・・・声だ・・? ―――――まさか生き返るとは思わなかった。こればかりは僕も見落としていた。 君はまだ運命の形を留めていないのだ・・・。 何だ?何を言っている? ―――――君たちがこれから歩む『苦難の道』にはきっと何か意味があるのだろう・・。 かつて君が・・・かつての仲間達と歩んだあの道のように・・・。 君たちの苦難はやがて、あの少年に受け継がれたように、どこかの誰かに希望として伝わっていくような何か大いなる意味となる始まりなのだろう・・。 僕には何も出来なければ無事を祈ってやることもできないが、君が『眠れる奴隷』であることを祈ろう・・・。 何か意味のあることを切り開いていく『眠れる奴隷』であることを・・・。 ―※― 「・・・ラティさん・・。ブチャラティさん・・・・。」 「ブチャラティさん!!」 起こしたのはメイド服の少女だった・・。 「シエスタ・・。」 「よかった!もう5日も眠っていたんですよ!? 病室だった。どうやら途中で倒れてしまったようだ。 「本当に・・・よかった・・。もしかしたら・・・もう目覚めないかもしれないと思って私もうどうしようかと・・!」 「お、おい・・。オレは大丈夫だから・・涙を拭きなよ・・・。」 ブチャラティが涙を拭いてやる。そして自分の体の異常を確かめた・・。 「これは・・・。ケガが完全に直ってる・・。1ヶ月は安静にしたほうがいいかと思っていたのに・・。」 「ええ、治癒の魔法の効果なんですよ。すごい大怪我だったから直るかどうか 気が気でなかったのですが・・・。でもよかった・・。脈拍も呼吸も良好です!」 「・・!!・・・そうか・・。」 そう言ってブチャラティはふと疑問に思った。 「シエスタ。君がオレを看護してたのか・・?」 「いえ。あなたを看護していたのはミス・ヴァリエールですよ。 シエスタの指した先には、疲れきってブチャラティにもたれかかって眠っていたルイズがいた。 「ブチャラティさんをここまで運んだのも、「『治癒』の呪文のための秘薬の代金を払ってくれたのも、ミス・ヴァリエールなんです。」 ブチャラティがルイズの肩に毛布をかけてやって言う。 「後で、礼をいわなくちゃあいけないな……秘薬って、やっぱり高いのかい?」 「平民に出せる金額でないことは確かですね」 そう言って、意地悪そうにシエスタは笑った。 「5日間ずっと付きっきりで看護していたんですよ・・。包帯を取り替えたり、顔を拭いたり……。 ずっと寝ないでやってたから、今はお疲れになったみたいですけどね」 「そう・・・・か・・・・。」 ブチャラティはルイズの寝顔を見ながら、どこか微笑ましい気持ちになった。 「んん~。アンタご主人様を心配させるんじゃないわよ・・・。ムニャ。」 「生意気で、ワガママで、傲慢な女だと思っていたけど、けっこうカワイイところがあるもんだな。 ・・・・ありがとうな。ルイズ。」 ブチャラティは頭を撫でながらそう言った。 そして思った。オレの命を救ってくれた恩を返すまでは・・・。 そして、イタリアに変える方法を見つけるまでは・・・。 ――――――――――――――――こいつの使い魔でいても、いいかな 「あーオホン。お取り込みのところ悪いんだけど・・。」 全身包帯グルグル巻きの正体不明の男がいた。だがその声に 聞き覚えがあった。自分の声に似てたから。 「もしかして、ギーシュか?」 「ああ、正真正銘"青銅"のギーシュ・ド・グラモンさ。」 だがその痛々しい姿はブチャラティもビビッた! 「お前・・・そんな怪我になるほどぶん殴った覚えがないんだが・・・。」 「まあ・・・いろいろあってね・・・。実は・・・二股ではないことがバレたんだ・・。」 ―※― 「さあ、アンタも治療を受けにいくわよ。」 「ああ・・・。」 ギーシュ様―――――――――――!!!!! 「「えっ!?」」 「ギーシュ様!お怪我は大丈夫ですか!?」 「負けてもかっこよかったですよ!ギーシュ様!」 「すぐ応急処置を!私"水"使いだから直せますよ!」 「何よ!私だってできるわそれくらい!」 ガヤガヤ!ゴタゴタ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ 「ひい、ふう、みい・・・・12人ね。ケティも入れたら合計十四股だったって事・・。 ふぅ~~ん・・・。」 ギーシュが身の危険を感じ取るッ!! 「じょ・・じょうだんだってばさぁモンモランシー!ハハハハハ。 ちょ、ちょっとした茶目っ気だよぉ~~ん!たわいのないイタズラさぁ! やだなぁ、もう! ま…まさか、もうこれ以上殴ったりしないよね…? 重症患者だよ。全身骨折してるし絶対安静にしてないと・・・。ハハハハハハハハハハ・・。」 「もうアンタにはなにもいうことはないわ・・・。 ・・とてもアワレすぎて・・・。 何も言えないわ。 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 「ちょ、やめ!骨折部分にひび・・グワァ!!」 右頬、顎、左肩、胸、右膝、両脛… 至る所を殴り付け断罪を下すッ!! 怒りの力を振り絞った渾身のラッシュだったッ!! 「ぐあっ!ぐえっ!わ、悪かった!僕が悪かったからもう・・!ゆるグパァ!!」 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 ドッバァ――――ッ!! 「ブァガァーーーーーーーッ!!」 バラッ! 「アリーヴェデルチ!(さよならよ)」 ―※― 「と言うわけで・・ね・・。」 「・・・・・そうか・・。それで、もう懲りたのか?」 「まさか!僕はグラモン家の人間だよ?これからも全ての女性を愛でる薔薇でいつづけるよ。 それより、君には負けた。君の黄金の精神にはいずれ一矢報いて見せるよ。 これからもよろしく!ハッハッハ!」 ブチャラティは半ば呆れつつも、 「やれやれ、これからもいろいろ大変そうだ。」 半ば楽しみにしていたりもするブチャラティだった。 ギーシュ・ド・グラモン――――再起不能――――まさかのダブルアリアリで 全治半年(『治癒』のおかげでで2週間) モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ―――それでもギーシュの看護を行った。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール―――部屋に連れて行ってもらうとき ブチャラティに お姫様ダッコを されていたことに顔を赤らめ、ぶん殴る。 シエスタ―――――――その騒動の後、ブチャラティに食事を作ってやる。 ブローノ・ブチャラティ――――再起不能から離脱。 to be continued・・・-